四十三庵

蔀の雑記帳

面白い本の3つのタイプ

芥川賞をとるには 文学賞って、選考委員が「なんでこの小説が選ばれたのか」っていうことを示す、選評というのがあるんですよ。 初期の芥川賞の選評なんかを読むと、今と全然違っていたり、変な所は一緒だったりして、面白い。 初期の芥川賞の選考は、結構閉鎖的にやっていたようで、 「この作者の力量を考えたら、この小説は芥川賞にはまだとどかない。これならむしろ前作の方がよかった」 なんて選評が出てきたりする。 結局、どういう小説が賞をとるのかっつったら、 面白い小説 な訳ですよ。 (もちろん、裏で金や出版社が動いてるなんていうのも考えられるけど) 実際選考委員もぐだぐだぐだぐだ選評書くけど、それって要は 「なぜ面白かったのか」 を解説してるだけなんだよね。 そうなると、どうしても選考委員の主観は入ってくる。 今の芥川賞が豚の餌に堕したのは、選考委員がクソの集まりだから。 主観に左右される以上は、選考委員がまともでないと、文学賞は機能しない。 そういう訳で、昔の芥川賞は、なんせ川端康成とか横光利一とか菊池寛とか坂口安吾とか、 そうそうたる顔ぶれがそろっている。 三島由紀夫も、タイミングが悪くて、自分自身は芥川賞とらなかったけれど、選考委員をやっていて、 「今度の予選作品を通読してみて、その文学精神の低さにおどろいた。大学も荒廃しているが、文学も荒廃している、という感を禁じえなかった。」 という名選評を残した。 ○では本の面白さとは? 小説に限定するのもなんなんで、本一般について、面白さとは何かを考えてみる。 大体、面白い本は3つに分類できる。 1、知識教養が深いもの 2、娯楽性が高いもの 3、本そのものが一つの世界を構築しているもの 1はたとえば、クルーグマンの経済本みたいなもので、 知識教養が深いものは面白い。 高校の教科書とか参考書とかも、勉強だと考えずに、楽しむために読んでみると、面白くてびっくりした。 今世界史の教科書を読んでいる。楽しい。 高々三百何頁の中に、世界の歴史の概略がまとまっているのだから、すごいことだ。 2は、森見登美彦の小説なんかのように、ユーモアだとか、物語性だとか、 あるいは官能小説みたいにエロさによって、娯楽性が高いもののこと。 3がちょっとわかりにくいと思う。 そもそも、最近の本で3のようなタイプの本はあまりない。 ニーチェの「ツァラトゥストラはこう言った」(または「?かく語りき」)なんかがそうなんだけど、 本の内容そのものが、一つの観念世界として、我々の住む現実世界と対立している奴。 哲学書や宗教書に多い。「聖書」や「コーラン」なんかも、ある意味ではこのタイプ。 もちろん日本の本にもある。 「葉隠」だとか、「風姿花伝」とか。 とにかく読者に、世間一般の価値とは、全く違う強烈な価値観を示しているものだ。 多分芥川龍之介なんかの、戦前の文学者が目指していた小説っていうのが、この3のタイプなんだと思う。 このタイプの本は、一読しただけでは理解できないし、おそらく何度読んでも、完全には理解できない。 ただ強烈な刺激として、心に残る。 その衝撃は、恐らく文章でしか表現できない性質のものだと思う。 現代みたいに、読者が理解できないものを書く作家は悪文家だと見なされる世の中では、 3のような本は駆逐されていくだろうね。 まあ僕は面白い本は何でも好きだから、1だろうと2だろうと3だろうと、面白ければ何でもいいんだけど。