四十三庵

蔀の雑記帳

ポール・クルーグマン「経済政策を売り歩く人々―エコノミストのセンスとナンセンス」

○翻訳文がとにかくイヤ これはこれで、あんまり翻訳がよくないな。 洋書の何が嫌って、明らかに日本語としておかしい悪文を読まないといけないことだよねえ。 まあ僕が原著読めるだけの語学力があればいいんだけど。 英語の本くらいは読めるようになりたいね。 英語さえ読めれば他の言語は大体英訳があるだろうし。 今ではもうわりきってるけど、中学生くらいの時はホントに翻訳文だと読み進められなくて、 日本人の著作ばっか読んでた。 たまーにがんばって外国人作家も読んだけど、どうしてもねえ。 ○内容 この本は、一流の経済学者が、びっくりするくらい大衆向けに、 ケインズ経済学以降の経済学の潮流を書いた本。(当然アメリカの話中心だけど) ・マネタリズム まず、ミルトン・フリードマンマネタリストによるケインズ経済学批判からはじまる。 フリードマンの主張もわかりやすくまとめられている。 一例としては、インフレ率と失業率トレードオフを示すフィリップス曲線の批判について。 フィリップス曲線によれば、インフレ率と失業率は負の相関を持つ。(反比例関係ってことね) もし仮に貨幣供給量を2倍にしても、失業率は2倍にはならない。 フィリップス曲線が間違っているのかというと、そうではなく、 フリードマンの主張によれば、この原因は、家計企業が物価上昇に反応できないから。 もっと悪く言えば、騙されているから。 よって金融政策で中央銀行がインフレ率をいじって、失業率低下をはかるのは無理なんで、金融緩和しかない。 失業率低下のために、ひたすら貨幣を増刷して、 NAIRU(Non-accelerating-inflation rate of unemployment)を目指すのが、 マネタリストの親玉、ミルトン・フリードマンの主張の骨子。 ちなみにフリードマンによれば、不況の原因は人々の錯覚で貨幣保有量が上昇するから。 ・合理的期待仮説 ロバート・ルーカスによる主張で、 金融政策は人々の予想にくみこまれれば無意味である、というもの。 ・マネタリズム イン アメリカ アメリカでは、マネタリズムというのは、政策レベルでは導入されなかったらしい。 ただ彼らのフィリップス曲線の批判なんていうのは、 スタグフレーションという、それまでの経済学の枠組みでは起こらないような現象によって、 かなり説得力を帯びたらしい。 (※スタグフレーションって、インフレ+景気後退のことね。 フィリップス曲線では負の相関にあったはずの、インフレ率と失業率が、 仲良くはねあがってしまって、アメリカの偉い経済学者の方々はびっくりした訳さ) 結局マネタリズムは、サッチャー政権のイギリスで導入される。 それがどうなったのかは後段で。 ・サプライサイド経済学 ロナルド・レーガンによって導入された政策。 「減税、規制緩和公共事業削減しまくると、 企業は元気モリモリ、ババーンと成長!業績右肩あがり間違いない! 減税分なんて一気に法人税増加で賄えます><」 という考え。文章そのものは至って真面目に書かれてるんだけど、 内容が内容だけに、所々笑ってしまう。 特に正統派経済学者として輝かしい研究成果を上げていたロバート・マンデルが、 突然サプライサイド経済学に目覚め、それ以前の自分の業績を否定し出す所なんて、とても笑いを堪えきれない。 「くぐもった喋り方」って出てくるから、ちょっと調べてみたら、 Robert Mundell Ph,D - 01=22-86 (1:38あたりからマンデルさんがもごもご喋りだします) 予想以上にききとりづらくて更に笑った。ルックスも最高だ。 経済学を極めると同時に、笑いを極めてしまうなんて、なんて偉大な博士なんだろうか。 ちなみにサプライサイド経済学は、レーガン政権のもとで導入される。 理論的にはクソみたいな主張なんだけど、これが偶然、なかなか上手くいってしまった。 レーガン政権は、結構好況に恵まれた政権だったのだ。 まあでも、そのツケは多額の財政赤字として、今のアメリカ政権に継承されている。 結局減税による歳入不足は、法人税の増加じゃ補えなかったんですね。(当たり前だけど) ・ヨーロッパ経済の黄昏 上でも書いたとおり、イギリスの女性首相、サッチャーマネタリズムに基づく経済政策を本格的に導入して、 結論を先に言うと、失敗した。 イギリスは元々電話、空港系、ライフライン系あたりは国営で回してたんだけど、これを全部民営化。 法人税所得税を減税して、その分付加価値税(消費税みたいなもん)は増税。 イギリスは大英帝国の伝統なのか、中央銀行の独立性が弱くって、 イングランド銀行は政府と歩みを合わせて、インフレ抑制のため大幅に利上げ。 そして、政府が経済に干渉しないでいると、民営化や減税が功を奏したのか、失業率も何とか下がってきた。 長い間「イギリス病」と嘲笑され続けたイギリスの停滞していた経済が、少しずつ動き出した。 サッチャーの政策が、好況をもたらした。 ところがあちらを立てればこちらが立たずというやつで、好況が訪れ、 失業率が改善されると、段々インフレ率があがってくる。 マネタリズムにより、イングランド銀行は貨幣供給量の調整以外の金融政策はせず、 インフレ率が2桁台になっても銀行は手をうたず、静観しつづけた。 そして一向にインフレ率が下がらないので、ついに金利を上昇させると、一気に好況は終了、再び2桁台の失業率へ。 サッチャーたんはマネタリズムを放棄しました。 (フリードマンは怒ったみたいですが) サッチャーはその後しばらく政権を担当するが、人頭税導入が世論の反発を呼び退陣。 このマネタリズム政策の失敗は、非常に興味深い。 後、これともう一つ、EMS(欧州通貨制度)の失敗も面白い話。 詳しくは読んでもらえばいいんだけど、要するに欧州通貨は 経済優等生の西ドイツが牽引役になって、西ドイツのマルクの安定に合わせるような感じで、 ヨーロッパ各国が調整して、そこそこ上手く機能してたものが、 ドイツの東西統一で、一気に崩壊したという話。 てか、今のEUと全然変わんないwすごいデジャブw ギリシャ問題といい、ホントにヨーロッパ経済はダメだなあ。 ・ケインズの復活 マルクス経済学者でもなければ、いやあるいはマル経でさえ、市場がある程度合理的であることは認めると思う。 でも現実的に、市場に任せていると色々機能しない部分がある。 市場の失敗って奴ですね。まあ学部一年でやるし、高校の政経の教科書にもある程度書いてあるし。 市場効率性はなぜ働かないかっていう視点から経済を考えると、 不完全競争市場、近似合理性などなど、色々理論は出てくる。 (てかクルーグマン、自分の教科書に載せてたね) そういう訳で、多少自由主義的立場から考えても、ケインズ政策の有効性は保たれる。 市場は確かに効率的だし、ホントは市場に全部任せるといいんだけど、 実際問題、市場の効率性を阻む様々な要因があるんで、財政政策、金融政策の有効性が出てくる。 ・QWERTY経済学 ポール・クルーグマンの本業は、多分国際貿易論。 ノーベル経済学賞もらったのも国際貿易論だったし。 QWERTY経済学というのは、貿易を考える時に当然出てくる、 なんで先進国の製品が売れて、発展途上国の製品は売れないのかという問題で、 その原因は、何ら合理的な原因ではなく、「先に工業化に成功した」というだけだと考えるのがQWERTY経済学。 キーボードの配列が、Q、W、E、R、T、Yとなっているのは、 はじめて作ったキーボードがテキトーにそういう順番にされただけなのに、 キーボードが普及する過程で、QWERTYの順に並んでいるのが、 タイピストが一番打ちやすい配列になり、いつの間にかQWERTYは、 「テキトーな配列」ではなく、「正式な配列」となってしまった。 こういうことが貿易にも言えるのではないのか。 QWERTY経済学というのは、まだ定着した名前ではないようだけど、面白い名前だと思う。 ・戦略的貿易論者 で、そういう正統派のQWERTY経済学に対して、 クルーグマンが軽蔑の意をこめて、当時の「政策プロモーター」どもを呼んだのが、「戦略的貿易論者」。 戦略的貿易論批判は、すなわちクリントン批判なんだけど、 ここには待望の左派政権が、自分を用いてくれないばかりか、 デタラメな経済学にもとづいて政策決定していくことに対する失望があらわれている。 ○感想 面白れー。クルーグマン面白すぎる。 日本だと、この手の大衆迎合っぽい本を書く学者って、大抵学業では認められていない二流学者だったりするけど、 クルーグマンはガチの一流経済学者で、書こうと思えば、数式使いまくりの難解な論文だって書けるのに、 そういう学者が、大衆に向けて自分の研究成果を噛み砕いて書いてくれるのは、本当にアメリカのいい所だと思う。 (アメリカでもクルーグマンみたいなのは少ないだろうけど) wikipediaに対する態度だって、 日本だと自称インテリは「間違いが多いから信用するな」って言うけど、 アメリカは「ここは間違ってたから私が訂正した」って言う風で、どんどん良いものにしていく。 英語版wikiの記事を見たら、その内容量に圧倒された。 まだ僕の英語力じゃ記事の半分もわからんけど、わかるようになりたいもんだね。 ん、クルーグマンと全然関係ない話だこれ。