四十三庵

蔀の雑記帳

J・R・ヒックス「経済史の理論」訳新保博、渡辺文夫

John Richard Hicks"A Theory of Economic History"

20世紀を代表する理論経済学の巨匠ヒックスが、「市場の勃興」を中心に世界経済史の道筋を理論的に解説。古代地中海世界都市国家で活躍した商人がその交易活動によって「市場の浸透」の第一局面を開拓。続いて古代ローマにおける貨幣や法の整備、中世イタリアの銀行など信用制度の発達による中期の局面を経て、産業革命期の近代で市場経済が支配的になったとした。現代経済社会の理解に必携の名著。

amazonより。必携かどうかはともかくとして。。。)


ヒックスは日本人の知名度は低い感じがするが、
ケインズの「一般理論」の難解な内容を、IS-LM曲線として誰でも理解できる(と言われております)形にしたことで知られる。
ヒックスは知らなくても、IS−LMは知ってるという人は多いのでは。
日本では、「ケインズが好き!」「スミスが好き!」というのはちょっとミーハーっぽくて恥ずかしいというインテリに、
「ぼかぁ……Hicksが好きなんですよ……」と言われるポディションに定着している。
ポディション的にはスピッツの位置。

ロバート・ソローはよく学生に、理論家には二種類いるんだ、と語っていた。一般化するのが好きな人と、啓発的な特殊例を探すのが好きな人と。

こちらから)
どうもヒックスは一般化するのが好きな理論家らしい。
この本はタイトルの通り、経済史の「理論」である。
「イギリスのラッダイト運動が〜」とか個別の歴史事象は、あくまで一般的な理論の理解を助けるために持ち出されるに過ぎない。
ヒックス教授が論考しているのは、もっと一般的な理論である。
○要約

  • 第1章 理論と歴史
  • 第2章 慣習と指令

 ・「市場」の起源を考える。
 ・市場の起源は、トップダウンではなく、下層から起こったものであるはずだ。
 ・「指令経済」と「慣習経済」がある。
 ・非市場経済として「収入経済」(revenue economy)

  • 第3章 市場の勃興

・慣習経済から商人的経済
 ・契約の保護の必要→規模の拡大
 ・都市国家が商人的経済をはぐくむ

 ・二財モデルで考えると、何度も売買を繰り返すと利潤率が低下する。
  →多種多様な財を売る動機に
 ・しかし容易には進まない。商人同士の利害対立により、経済の拡大は阻害される。
  →商人的経済の存在理由の自己否定→次の段階「中期の局面」へ
 ・商人的経済こそ、ヒックスの経済史理論では「第一の局面」とされる。

  • 第5章 貨幣・法・信用

 ・「貨幣」の登場には必然性があった。
 ・戦争はしばしば「第一の段階」の進展をふりだしにもどした。
 ・いつしか国家が商人を保護するようになる。
  →「中期の局面」
 ・「王」の鋳造する貨幣が信用を得る。
 ・「中期の局面」は法律の発展が見られた。→
 ・「担保」を債権者の手元に置くことで「金融」が拡大。
 ・有限責任会社という発明→市場拡大

  • 第6章 国家の財政

 ・国家は慢性的な窮乏状態にあった。
 ・商人層にうまいこと課税ができなかった(所得が正確にとらえられなかった)。
 ・銀行業の発展段階には三段階ある
  1,金融を仲介する(預金を貸出に回す)
  2,要求払いを受け入れること。
  3,預金の譲渡が可能になる。(小切手・手形など)
 ・「紙幣」が国家の鋳造益に変化を与えた。

  • 第7章 農業の商業化

 ・「土地」と「労働」の関係。
 ・「新しい土地」(開墾された土地)は領主-農民の形態だと増えない。
 ・結局農奴制は農業生産全体で見ると、生産拡大を妨げていた。
 ・農業は、栽培の時期と収穫の時期がズレるので、「保護」が要る。
 ・また天候・自然災害への対応は、下の農場労働者がやらなければいけない。
  →領主-農民制は非合理的
 ・短期の困窮に備えて、ある程度の資本が必要
 ・ただし現代の先進国では農業人口の割合は極度に下がっている。

 ・奴隷と自由労働。
 ・奴隷の人数が供給過多になると待遇が悪くなる
 ・奴隷貿易が禁止されると、供給が足らなくなり、奴隷の地位が上がった。
 ・自由労働の都市に流入してくる農民どももまあ奴隷みたいなもん
  →自由労働への移行は、供給不足による奴隷の相対的コスト高に起因

 ・はじめ機械は高かった。
 ・しかしさらなる技術革新で機械の価格が下がると、生産の現場を大きく変えることに。
 ・科学と工業がむすびつく。
 ・「機械」の導入が繰り返し行われた。
 ・労働者の地位は次第に改善している・

  • 第10章 結論

 ・現在の経済は「近代の局面」にいる。


○まとめ
「第一の局面」(原始的な商人的経済)

「中期の局面」(「国家」の保護、「貨幣」の流通、法・金融の発達)

「近代の局面」(自由労働市場産業革命をへて……)


○感想
知的な刺激を受ける良著だった。
訳文があまり学者訳でよくない。
時間かかるかな、と思って読み進めていったけど、
段々面白くなってきて、割合すぐに読み終えてしまった。

わたくしは最初に、自分はけっして経済史にせまい解釈を与えているのではないといった。わたくしがこの約束を果たしてきたとすれば幸いである。わたくしは、経済史を、十八世紀の偉大な論者が行ったように、きわめて広い意味における社会進化の一部をなすものとして示そうと試みてきたのである。いいかえれば、経済的な事象と非経済的である一般に考えられている事象とを結びつける道筋を示そうと試みたのである。しかし、それらのつながりを知るようになると、人はその認識が十分なものでないことに気づくのである。経済学から発して、他の社会分野、たとえば政治学、宗教、科学、工学にまで糸はつながっている。それらの糸はそこからさらに伸び、ふたたび経済学に立ち帰ってくる。わたくしは、その糸をたどっていくというようなことはほとんど行っていない。しかし、いかなる場合も、そのようなつながりの存在を否定するつもりは毛頭ないのである。
(第10章 結論より)

「経済」という視点から物事を見ると面白いね、という話でした。