四十三庵

蔀の雑記帳

物価・金利・為替をよりよく理解するための小話

  • 素朴な疑問

銀行や郵便局に行って金おろしたり預けたりすると思うんですけど、
最近の利子というのは、あってないようなものですね。
郵便局に預けていた10万円の定期預金が満期を迎えて、利子が0.15%だったんですけど、
なんかその利子率のまま普通預金みたいに扱ってくれるサービスがあるらしく、
窓口の人に「今、普通預金で預けるとこんなに高い利子にならないですからね」とありがたいアドバイスもらって、
10万の年利0.15%って150円じゃ、という思いで涙が溢れてしまいました。


こんなに利率が低いと、誰しもこんなことを考えたことはないでしょうか。

「日本じゃ利子が1%もつかない。これじゃ預けてもしょうがない。
けど新興国では利子率は高いはずだ。
じゃあ中国とかで金預ければいいんじゃね?」

僕も昔こんなこと考えてました。
それができないのは、単に国境の壁が厚くて、
やろうとしても仲介する機関もないんじゃないかと思ってたんですが、実際は違いました。

  • 金利の銀行にお金を預ける方法

方法は簡単です。
ブラジルの公定歩合が下げられて、12%(!)になったそうなので、ブラジルの銀行に預けましょう。*1
日本の銀行みたいなほとんど利子つけないケチな不景気銀行は捨てて、
これからの時代はグローバルな資産運用を考えなければね。


さてどうしましょうか。
みずほ銀行とかに行って、
「すいませんブラジルの銀行に金預けたいんですが」
と窓口のおねーさんにたずねてみましょう。
「はあ。ブラジル行ってください」
と教えてくれると思います。


そういう訳でブラジルに行きます。
そして現地で銀行口座を開設して、お金を預けます。
ブラジルはポルトガル語なので、しっかり勉強してから行きましょうね。
もしかしたら住所・国籍でちょっとめんどくさいことになるかもしれませんが、
そのへんは実際にやってみないとわかりません。
そこはまあ何とかなるとしましょう。
ブラジルにあなたの口座ができました。
さあ、早速年利12%の夢のような口座にお金を預けるぞ、と財布から一万円札を取り出しましたが、ATMは受け取ってくれません。
当然です。
ブラジルの通貨は「レアル」です。
僕らの使っている通貨は「円」で、もしブラジルの銀行にお金預けたいんなら、
先に外為コーナーに行って、お金を替えてもらわないといけません。
仕方ないので、手持ちの円を全てレアルに替えて、あなたは預金しました。
財布の中の100万円は48万レアルとなって、ブラジルの口座に眠りました。
一年で約5万7千レアルの利子が付きます。
(単利だとして)10年で57万レアルの利子がつきます。
色々単純化してるんで、こんなに上手くいくかどうかはともかくとして、
現状のブラジルではそんなに非現実的な話でもありません。
あなたは10年の定期預金を組んで、日本に帰りました。

  • 世の中そう上手くはいかない

さて十年後。
日本は債務残高がGDP比300%超という事態。
野田政権の消費税増税は国民の大々的な反対運動で頓挫し、
相変わらず国債は発行され続け、低迷し続ける景気でGDPも年々縮小していき、緩やかなデフレは十年続きました。
300%という記録的な債務残高で、格付け機関は遂に投資不適格級にランクを格下げ。
さすがの日本の銀行も国債を売却せざるを得ず、国債利回りは高騰(価格は下落)。
日本経済は着々とヨーロッパの後を追っていっていました。


そんな折、あなたはブラジルに預けた預金を思い出して、早速ブラジルに行きました。
48万レアルの預金に、57万レアルの利子がついたので、口座には確かに105万レアル入っています。
「こんなに簡単に儲けていいのかよ」
とニタニタ笑いながら、十年で二倍になった預金通帳を見て思いました。
さあ日本円に替えようと外為コーナーに行って、日本円に替えたとき、信じられないことが起こりました。
「ええっ、なんで?」
なんと105万レアルが、日本円にしてわずか50万円。
「どういうことだ……」

金利平価式
という理論が経済学の金融論という分野にあります。
これによると、

金利通貨は将来の為替レートがさがる
金利通貨は将来の為替レートがあがる

ことになっています。
詳しい説明は大学の教授か何かからきいてもらうとして、アイデアとしてはこういうことです。
金利のA国、低金利のB国があって、それぞれ通貨a,bを使っております。
A国では、マックのあのクソまずいハンバーガーが10aで買えるのに対して、
B国では10bで買えるとしましょう。
このシチュエーションで、A国の方が高金利で、
しかもハンバーガーの値段が固定であれば、誰だってbを捨てて、aという通貨で運用したいと思うはずです。


こういう「利鞘で稼ぐ行為」を「裁定」と言います。
耳慣れない言葉ですが、要するに「安い値段で買って、高い値段で売る」という行為全般を指します。
ファイナンス理論の基本ですが、均衡した市場では裁定は不可能です。
もしそんな上手い話があるなら、皆やっちゃって、チャンスは食いつくされてしまうからです。
「無裁定条件」という名前がついていますが、まあ別にそこまで覚えなくていいです。
「そうそう上手い儲け話はない」というのを、理論的に体系づけるとそんな仰々しい名前がつくんだと思ってください。


理論通り裁定が起こるとどうなるかというと、現在の為替レートと将来の為替レートは、
金利による儲けが発生しないように調整されてしまいます。


・・・うん、まあ、あんまり、実証的にサポートされてない理論なので、
理論としては正しいんですが、あんまり成り立たないんで、
この説明をきいても腑に落ちない人が多いだろうとは思う。
「その裁定って誰がやるんだ」とか、
「高金利通貨が買われるんだから、レートは上がるんじゃないか」とか、色々疑問はわくであろうと思う。
僕も書いてて思ったけど、金利平価式からだとこの話は説明しづらい。

もう少しわかりやすくて、ピンと来る理論はないか、というと、
購買力平価という、物価から為替レートを説明する理論がある。
僕が大好きな理論である。
長期的には、必ずこれに収束するからだ。
数式とかはググるなりして見つけてもらうとして、

物価の高い国の通貨の為替レートは下がる
物価の低い国の通貨の為替レートは上がる

というのが、この式の意味。
こちらの理論は多分金利平価式よりも納得しやすいんじゃないかと個人的には思う。
たとえばアメリカで物価が10年間で2倍になったとしましょう。
日本は逆に2分の1になってしまいました。
10年前の為替レートは1ドル=100円でした。
その頃はトヨタの車がアメリカで1万ドル、日本で100万円で売ってました。
ところがアメリカはインフレで、2万ドルになりました。
日本はデフレで、50万円になってしまいました。
(10年で何のモデルチェンジもしないことはありえませんが、まあ単純化のために)
さあこれで為替レートが1ドル=100円のままだと、どんなことが起こるでしょうか?
そうですね。
アメリカで売った車が、日本円だと200万円で売ってることになりますね。
固定相場制では、そういう事態もありえました。
しかし変動相場制では、そんな上手い儲け話はありません。
為替レートは下落していって、1ドル=25円くらいになって、
結局日本で売ろうとアメリカで売ろうと変わらないというオチになります。
それが購買力平価式の直感的な理解。

大体金利が高い国というのは、何で高くしているかといったら、物価が高いからに決まっています。
物価抑制のために、中央銀行政策金利を高く設定して、民間銀行もそれにならいます。
金利で世の中に出回っている現金を、銀行に吸収して、物価を抑制しようというのが主な目的です。
購買力平価式と金利平価式の結論がおなじになるのは偶然ではなく、

物価高≒高金利→為替レート下落
物価低≒低金利→為替レート上昇

という関係のためです。

  • 最初の話

こちらがブラジルレアルと日本円の為替レート。
現在1レアル=47円くらい。
http://www.google.com//finance?chdnp=1&chdd=1&chds=1&chdv=1&chvs=Linear&chdeh=0&chfdeh=0&chdet=1314831600000&chddm=2587993&q=CURRENCY:BRLJPY&ntsp=0
googleさんが為替レートも出してくれると非常にいいんだけども、まだ使い勝手がよくないし、データも少ない)
そして、ブラジルの物価。

これが利子率12%という荒業もうなずけるような、高インフレっぷり。
今回の利下げで、再びインフレ率は二桁台となり、それが十年間続いた。
その一方で日本はデフレ継続で、物価は下がり続けましたとさ。
すさまじい円高レアル安が発生して、為替レートは1レアル=12円となりました。
そういうことで、賢くブラジルで資産運用しようと思ったら、逆に損しちゃいました。
おしまい。

*1:ブラジル中銀、0.50%利下げ 2年ぶり、先進国経済に不透明感 2011/9/1 9:02【NQNニューヨーク=川内資子】ブラジル中央銀行は8月31日(日本時間9月1日朝)まで開いた通貨政策委員会で、政策金利である基準金利を0.50%引き下げ、年12.00%にすると発表した。利下げは2009年7月の会合以来、約2年1カ月ぶり。先進国経済の先行き不透明感を理由に挙げている。同中銀は今年1〜7月に開いた5回の委員会で計1.75%の利上げを実施したが、一転して金融引き締め方向の修正に動いた。市場では今回、金利を12.50%に据え置くとの見方が大勢だった。委員会の表決結果は利下げに賛成が5人、金利据え置きを主張したのが2人だった