四十三庵

蔀の雑記帳

為替レートを人為的に動かすためにはいくらいるか

円売り介入「1円」の値段は?
経済金融部 石川潤

政府・日銀はこの1年で3回の円売り介入を実施した。円高・ドル安に一定の歯止めを掛ける役割を果たしたものの、「大量の資金を投入した割に効率が悪い」との批判もつきまとう。外国為替市場の取引量が増えているため、介入の効果が出にくくなっているとの指摘もある。では、最近の円売り介入は本当に効率が悪いのか。過去の介入と比較してみた。

 分析の対象としたのは、(1)2000年以降に実施し、(2)1日に1兆円以上の資金を投じた、(3)円売り・ドル買い介入――とした。合計で11回あった。財務省は介入の日付は公表しているが、実施時間は明らかにしていない。このため、介入実施日(海外時間を含む)の円の高値と安値の値幅を、介入による円の押し下げ効果と仮定し、投入金額と単純比較した。

 財務省は今年8月の介入について、月全体の額のみを公表し、1日ごとの詳細はまだ公表していない。8月の実績(4兆5129億円)はすべて8月4日の円売り介入によるものとした。

 その結果、最も効率の良かったのは03年5月19日に実施した円売り介入だった。政府・日銀は1兆401億円を投入し、円相場を2円65銭、円安方向に押し戻した。円相場を1円動かすのにかかったお金は3925億円。介入に踏み切ったのが海外市場で、投機筋の意表を突いたことが効果を高めた可能性がある。

 最も効率の悪かったのは、今年8月4日の介入。4兆円以上をつぎ込んで、動いたのは3円31銭だけ。「1円の値段」は1兆3634億円で、最も効率が良かった介入の3倍以上に膨らんだ。政府・日銀の介入を見越して、個人投資家や輸出企業が手持ちのドルを売ろうと待ち構えていたため、相場を押し下げるのに多額の資金が必要となったとみられる。

11回の介入を平均すると、円安方向に1円動かすのに必要な金額は約7000億円だった。昨年9月の介入はこの平均に近い金額で、過去に比べて際だって効率が悪いわけではない。6年半ぶりの介入という意外感が、ある程度、効果を大きくしたようだ。

 ちなみに、東日本大震災直後の今年3月18日に実施した日米欧の協調介入では、わずか6925億円(日本分のみ)で約3円も円安が進んだ。「1円の値段」は2263億円で、かなり効率的だった。米欧の協力を得られたことや、直前の円の上昇が投機によるものだったことが、円安方向への戻りを大きくした。

 それでは今後、政府・日銀が再び介入に踏み切った場合、効果はどうなるだろうか。

 米欧の協調を期待できないうえ、市場参加者が介入を意識してドルの買い持ち高を膨らませている点で、現在は今年8月の状況に似ている。市場では「介入に踏み切っても効果は限られる」(JPモルガン・チェース銀行の佐々木融債券為替調査部長)と、足元を見透かす向きも多い。

 効率の悪い介入は、財政への負担も大きい。

 円売り介入に必要な資金は、政府が短期証券を発行して調達している。政府は円建ての負債と外貨建ての資産を抱えることになるため、円高が進むと評価損が生じる。最近の円高で、国(外国為替資金特別会計)の為替評価損はすでに40兆円に達しているもよう。介入に伴う短期証券の発行が膨らめば、理屈としては、政府の市場から資金調達余地も狭まる。

 円売り介入は輸出企業への補助金とも言われるが、効率的なお金の使い方と言えるのか。国の財政事情が苦しくなるなか、介入の効果の検証も必要になりそうだ。

7000億あれば1円動かせるようです。
お金持ちの方は是非。