四十三庵

蔀の雑記帳

あまりに経済的な若者が草食男子・肉食女子化する事情

草食男子・肉食女子という言葉が少し流行った。
(最近はそんなにきかないけど)
それが事実かどうかはともかくとして、この記事ではとりあえずそれが事実であると仮定しよう。
ではなぜ若者は男が草食化して、女が肉食化するのか?
ジェンダー論だとか、テレビの影響だとか、
ひどいジジイになると
「若い男が不甲斐ないからだ。徴兵制を復活させろ!」
などと意味不明な供述をするけれど、実はシンプルに説明できる。*1

  • 草食男子が生まれる背景〜日本の労働環境

ここで少し日本の労働環境の説明をさせてもらう。
(興味がなければ次の章「若者の草食化を読み解く鍵は「非正規雇用の増加」」まで読み飛ばし化)
平成22年の統計によれば、日本には労働力人口が6581万人いるそうだ。
その中で実際に働いている人が6248万人。
完全失業者が334万人だ。
自営業などを除いた、会社などに雇われて、給料もらって働いている雇用者が5479万人。
ここから役員を除くと5111万人だそうだ。
だからあなたのお父さんや僕の親父さんが会社の役員でないのは、統計的にごく自然なことなのだ。*2

労働力人口 6581万人  
→就業者   6248万人→●就業者 6248万人
→完全失業者  334万人  雇用者 5479万人→●    雇用者 5479万人
               自営業等 742万人  役員以外雇用者 5111万人
                                役員  368万人
(一部足し算が合わないけど原データ通り。
役員数は雇用者数から役員以外雇用者数を引き算した)

その5111万人の人々が、どういう形態で働いているのか、というグラフがこちら。
*3
正社員というのは、全体の65.7%。
割合としてはまあ雇用者の中でも、正社員が多数派ということになるが、多分、イメージよりも低い数字ではないだろうか?
「80%くらい正社員なんじゃないかな」というイメージが漠然とあったのではないかな。
実はこれ、男女合わせた数字なので、65%になるんだけど、
きちんと男女分けると、男性雇用者は正社員の割合が81%、女性は46%という数値になっている。
女性のパートがいかに多いかということでもある。

日本全体で非正規雇用は増えている。
ただリーマンショック以降の派遣切り問題とか、秋葉原の通り魔犯罪とかで、
非正規雇用のイメージは最悪となっているおかげもあって、非正規雇用の数年前がピークで、最近はやや減少傾向にある。

もう勘のいい方は、薄々僕の主張したいことがわかってきたかもしれない。
若者の非正規雇用の増加こそ、草食化の原因だと主張したいのだ。

年齢別に正規雇用非正規雇用の割合を見てみると、こうなる。
*4
このグラフは男女が一緒なので、別に全年齢にわたった非正規労働者は一定数いて、
むしろ若者より中高年の非正規雇用の多さの方が問題に見えてしまう。*5

ところが男女別の非正規雇用の割合で見てみると、実は29歳以下の男性はかなりヤバい状況にあるのがよくわかる。
*6
この斜めにしたどら焼きみたいなグラフは、若年層と老年層の男女の非正規雇用の割合がかなり接近していることを示している。
どういうことかというと、老人は再就職だなんだとなると、
正社員の口がほとんどないため、男だろうと女だろうと、働くのであれば非正規雇用とならざるを得ない。
しかし15歳〜24歳以下の若者(♂)で26%という高い割合になっているのは何故か。
恐らくは「正社員になれなかった人々」が多数を占めるはずだ。

更に、女性の非正規雇用の割合とかなり接近してしまっているのが問題だ。

  • 若年男性層の(相対的)貧困

非正規雇用の一番の問題が、定期昇給がほとんどないことだ。
(会社からするとそれが一番メリットで、将来設計のない近視眼のアホをかわるがわる酷使できる)
非正規雇用の人々は恐らく今後何年経っても大半は正社員になれない。
「別に派遣でもそれは一つの生き方じゃないか」と肯定なさる方もいるが、
データを見る限り、収入はかなり厳しくなることが予想される。

正社員と非正規雇用の生々しい賃金格差。
いかに定期昇給がでかいのかがうかがいしれる。
アルバイトで300万円以上稼いでいる人がほぼ0なのに対して、正社員は

*7
そして男女のこれまた生々しい賃金格差。

なんでこんなに男女で違うかといえば、女性は正社員が少ないから。
ほんの二十年くらい前までは、「普通の女」が正社員で企業に定年まで勤めることは、実質不可能だったのが、
こういう統計上にもあらわれている。

しかしこのグラフでは世代別の賃金動向がわからない。
世代別だとどうなるのか。
もっとクリティカルなグラフとして、年齢・業種別の月収の統計があった。

*8
30歳以上の世代の男女の賃金格差は明らかだけど、それ以下だとそんなに大した差はない。
そしてこの傾向は今後も続いて、賃金格差は縮小の一途をたどると予想される。*9

さて、ここまで読んで頂ければ、草食男子などと軽々しく口にするのも憚られるような、
若年男性層のあまりにもお寒い経済状況がわかるのではないか。
特に男女の賃金格差が縮小している。
一番大きな、男が消極的になった原因は、このことが影響している。
一昔前は、男が経済的優位性を持ってるのは当たり前だった。
文化的に男尊女卑の空気があったというよりは、その経済的優位性が残ってたから、恋愛でかなり男は優位に立てた訳だ。
(女は三歩下がって……なんていうのは六十五年前の戦前の教育であって、現在六十五歳の老婆ですらそんな教育受けてない)

こういうことを書くと
「俺だって若い頃は貧乏だったぞ」
と仰る30歳以上の方が、自分の若い頃のありがたい苦労話をまじえて反論してくるのがまず予想される。
確かに若年層の所得が低いのは、昔からそうだ。
しかし問題は「将来の所得予想」。
非正規雇用の25%の若年男性は、正社員の椅子にありつくか、
事業でも起こすかしない限り、恐らく将来も年収200万前後の所得が続くことになる。
正社員であっても会社が倒産したり、リストラにあったりという恐怖があるし、
失業という最悪の事態は避けられたとしても、将来の所得予想は、多分今中高年がもらっている額よりも、
低い額を予想している人がほとんどだと思う。

  • 若年男性層の貧困がわかれば、「若者の○○離れ」の正体も見える


若者は色んなものから離れて行ってるみたいで、
マスコミの扱い方を見ていると、いったい若者がどこに向かっているのかわからなくなるが、
これも実は「若年男性層に金がないから」と一言で説明できる。*10

  • 結論

・若い男が草食男子化するのは、「非正規雇用の増加」による低所得が原因です。
・もっと言えば所得が低くて、しかもその所得が将来にわたって続くと予想されるし、
おまけに女性とそんなに差がないというのが原因です。
・「若者の○○離れ」も同じように説明できます。
・30代以上の男が「俺の若い頃は女にアタックしまくったぞ」と言うけど、
あなたの若い頃は女を正社員の席から締め出して、男の席をキープしてるのが当然の社会でした。
・今、15歳〜24歳(学生は除く)の若者は4人に1人が非正規雇用で働いています。
非正規雇用と正社員の収入格差は年をとればとるほど開いていきます。

(関連記事)
若者の○○離れが起こる理由
内容自体はこれと一緒ですが、こっちは論拠なしにただ書いてるだけです。
今回の記事は、同内容をデータを用いてちょっとかっちり説明しました、というもので、趣旨は同じ。

若者の内向き志向について〜的外れな若者批判の典型として〜
一年前の記事が、はてブを二つ獲得した。
去年はこんな記事でも当サイトのナンバーワンの人気記事だった。
昔は老人批判の記事をいっぱい書こうと思ってたんだけど。

(データの引用元)
労働力調査(詳細集計) 平成22年平均(速報)結果
統計局 第16章 労働・賃金

*1:このブログってこんな展開ばっかだね

*2:以上http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/zuhyou/900000.xls

*3:http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/zuhyou/900200.xlsの数字をもとに作成

*4:http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/zuhyou/900200.xls

*5:おそらく定年後や早期退職後に再就職しようとなると、正社員の口はほとんどないので、こういうことになるのだと推測される

*6:注4と同じ

*7:以上三つのグラフはhttp://www.stat.go.jp/data/nihon/zuhyou/16syo/n1602600.xls

*8:この二つはhttp://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/zuhyou/900400.xls

*9:専業主婦願望持った女の子もそれなりの数いるから、ゼロにはならないだろうけど

*10:おまけに少子化で若者の絶対数が減ってるから、そりゃ売れないよね。むしろこういう言葉を作ったり、平気で使ったりしてる人はよっぽど世の中が見えてない人なんじゃないかと思ってしまう