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四十三庵

蔀の雑記帳

TPP反対派の「アメリカが85%を占める」のウソ(ついでにアメリカ陰謀論もウソ)

マネー

「とくダネ!」でTPP反対派の京大准教授・中野剛志ブチ切れ→Twitterで田村淳が苦言呈す


(動画が削除されていたので差し替えました 2011/11/01。また削除されるかもしれません)
話題のTPP反対論者・中野剛志氏「とくダネ!」出演部分を文字起こししたよ

TPPに関してコメントする気はさらさらなかったんですが、気になる点があったので一点だけ指摘します。
となると自分の立場も表明しないとフェアじゃないので、最後にちょっとだけ書きます。*1

中野剛志の暴れっぷりが一番話題になってます。
動画見てもらえば態度の悪さがすごい。
ν速民からは絶賛されてますが、僕としては態度悪いんならそれだけの主張をせんとあかんと思うんですが、
そこまでの主張ではないなと思います。

個人的に一番ミスリーディング(多分意図的)だなあと思ったのは、

この円グラフを出して、
「アメリカと日本しかいないんすよ」
と言ってしまってる点。
確かにこのグラフを見れば実にTPP市場の91%を日米が占めています。
僕も現場で椅子に座ってたら咄嗟には指摘できなかったとは思いますが、
TPPの議論をする時にGDP規模を直接比較しても、全くの無意味ではないが、
実は貿易に関するマーケットの規模を示していることにはならないです。
というのは、仮にGDP規模が巨大であっても、貿易を一切していない鎖国状態の国であれば、当然貿易額もゼロになります。
実際問題名目GDPではアメリカ日本は巨大だけれども、貿易依存度は10%前後であり、
発展途上国は100%を超える国もちらほらあります。
つまり経済が巨大であっても、アメリカや日本なんかは、
90%程度は「国内でつくったものを国内で消費する」ということです。

だからTPPの議論で、GDP比較することはミスリーディング極まりない。
何を考えなければいけないかというと、貿易額
GDPでいくら比較しても無意味なんですね。
いくら図体がでかくても、貿易っつーのはいくら外へ吐き出して、吸い込むかという話です。
いわば僕らは動物がどのぐらい酸素を消費して、二酸化炭素を吐き出すのかという議論をしているのですが、
その時に「象は図体がでかくて、鼠は小さいぞ!円グラフにしたら象二匹だけで90%だ!」という主張をしたら
的外れ極まりないんですが、それが経済だと皆あんまよくわかってないので、
「そんなもんかな?」と思って納得するか、異論があっても黙ってしまいます。*2

実際に貿易額を比較するのはもう少し下でやります。
その前にもう一つ、TPP反対派の記事を。

  • 「日本から見ればTPP市場はアメリカが85%」は事実ではない

日本から見ればTPP市場はアメリカが85%である事実
下の記事はもう少し理性的に書かれていて、貿易依存度もきちんと載っている。
が、この記事でもGDPによるミスリードが行われているのは大変残念。

この円グラフが日本から見たTPP市場、ということだが、
要するに日本抜きのTPP参加(予定)国の名目GDPを%で円グラフにしたものです。
かなり理性的に書かれている記事の中に、こういうミスリードを入れてくるというのは意識してやってるのであれば非常に悪質。

  • 貿易額で比較すればTPP市場のアメリカが占める割合は約70%

正しく貿易額で見た割合はこうなります。
ちなみに数字は全て「日本から見ればTPP市場はアメリカが85%である事実」の中で使っている数字をそのまま使っています。*3
○輸入割合*4

○輸出割合

○日本を除いた輸入割合

○日本を除いた輸出割合

まず一つ指摘できるのは、中野剛志が番組内で散々アピールしていた
「TPP市場は91%が日米」
という円グラフがとんでもない暴論で、実際はTPP参加(予定)国の輸入総額の75%。
いやもちろんそれでも日米の貿易規模は大きいですが、その他の国々も合わせれば25%くらいになります。
番組内で中野剛志は、
「東北の被災地の一次産業は、たぶん0.5%ぐらいですよね。ああそうですか、残りの99.5%(の方)がいいんですね。犠牲にするんですね。東北の被災地の一次産業は犠牲にするんだ。スゲーな、最低だよ、日本人って。そういうことですよ」
と言ってましたが、25%を無視する日本人は最低じゃなくて低能というべきでしょう。

そして次に指摘できるのは、日本を抜いた場合、
アメリカの輸入総額に占める割合は69%になる、ということで、
これも「日本から見ればTPP市場はアメリカが85%というのより随分ディスカウントされてますね。

いやもちろんそれでもアメリカの存在感というのは大きくて、
さすがあれだけ貿易赤字垂れ流してる国だなあと、
自分で数字をいじくってみて少々感動にも似た気持ちを覚えています。

  • TPPはアメリカに利するか?

上の二人のTPP反対派の主張で気になったのが、どうも「アメリカ陰謀説」を唱えているらしいという点です。
オバマが輸出倍増計画を発表していて、そのために日本市場が狙われている!ということなんですが、うーん?

オバマ米大統領、今後5年間での輸出倍増計画の詳細示す
http://jp.wsj.com/Economy/Global-Economy/node_40942

まずアメリカの輸出がふるわないのはけして関税のせいではなくて、
彼らの作っている製品の大半が時代遅れで、品質が悪いせいです。
だからおそらく関税撤廃してもアジアの中品質低価格の商品には勝てない。
比較優位があるとすれば金融・医療・農業の三分野だと思われる。
金融はもう既に相当までグローバル化が進んでいて、TPPではさほど変わらないでしょう
そして医療ですが、
「アメリカ型の利益・効率重視の医療が日本市場を食い荒らす!」
という主張も、正当性がないこともないですが、
僕は日本というのは、複雑な健康保険制度や閉鎖的な文化を押しのけてまで
採算があがる国ではないと思いますよ。
しかし仮に外資系医療が入ってくるとしても、日本は今後医師不足が予想されてるんだから、結果オーライじゃないですか?
むしろ入ってきてくれるんであれば歓迎しましょうよ。
で、農業。
これは日本の農業では太刀打ちできません。
TPPに参加したら確実に価格競争で負けます。
生き残るとしたら味や品質が、よほど日本人の舌に合わない場合だけですが、どうなんですかねえ。
昔どっかの東南アジアの国が阪神・淡路大震災の時に支援物資としてコメを送ったら、
インディカ米という、日本で食べられているジャポニカ米とは違う品質で、
とても食べられた味ではなかったから大量に捨てられたという日本人の最低っぷりを示すエピソードがありますが、*5
そのくらいのレベルでまずい農作物であれば、日本産でも太刀打ちできると思うんですが、どうなんでしょうか。
蓋を開けてみるまでなんとも言えませんが、いずれにせよ農家が大損こくことは不可避です。

だからTPP参加がアメリカに利益があるかどうかは微妙です。

  • TPP問題は結局、「農業vs製造業」の構図で捉えるのが正しい

今回の結論としては、
「(むしろ)アメリカ陰謀論は嘘っぱち」
「TPP問題は結局よく言われている通り「農業vs製造業」の構図で捉えるのが正しい」
ということです。

  • 僕の立場(読み飛ばし可)

最後に僕の立場を。
今回の記事では反対派の間違いを指摘してますが、僕は必ずしもTPP反対が間違っているとは思いません。*6
「日本の農業を守る」のが重要だと思うならば、TPP反対は至極まっとうな主張です。
(問題は農業を破壊してまでTPPにメリットがあるのか、また国をあげて農業を守るべきなのか、というところになる)

けれど貿易自由化はGATTやWTOによって推し進められてきた、世界の大きなトレンドです。
世界的に見て関税率は第二次世界大戦前後の水準からみたら、驚くような低さになっています。*7
この傾向が逆行することはほぼないと思われますので、
農家はいくら抵抗しても、いつか終わりが来ます。
仮に今回TPP採択が見送られたとしても、本質的な問題が解決した訳じゃないです。
アメリカにほとんど関税がない、というのは上の動画で中野剛志が指摘していたことですが、
(僕も具体的な数字は知りませんでしたから、よく知ってるなと思いましたが)
これは国際的なトレンドで、「高関税は長期的に見ると確実に経済にマイナス影響しかない」という経済学の理論に基づいています。
日本も農作物以外は結構関税下げてるんですが、米は700%というちょっとクレイジーな保護関税をかけています。
それだけ日本政府が米を重視しているというか、
単に農水省と農協のパイプの強さを示しているというか、なんとも言えませんが、
700%関税掛けて外国産の米と競合しているのに、
そのうえ補助金(戸別補償)をもらわないと生活が成り立たないというのは、もう産業としては最初から終わってるんですよ。
農業に関しては色々論点ありますが、この記事ではここまでにします。

前原さんも1.5%と言っているように、日本のGDPに占める農業の割合は本当に小さいですから、
TPPで農家が滅んだとしても、国家レベルで見るとそんな大きな話ではありません。
ただ田舎で農家やってる年寄りに「明日から農家以外の生業見つけろや。な?^^」と言っても絶望でしょうから、
なんらかの形で補償はいるんでしょうけども。
僕がこんな話題なのに、なんで今まで何も書かなかったのかというと、
ぶっちゃけ大した問題じゃないからです。
「日本が滅ぶ」ような話では間違えなくありません。
農業関係者以外にはほとんど影響ないもの。
日常の食料品とかが少しお安くなるかならないかという話で。
中野剛志なんていうのは反対派の中でもかなりマトモな方で、
TPP反対派の主張というのはもう本当に宗教レベルのものが多くて、
今までTPPについて書かなかったのは、そういう人と議論になるのが嫌だったからです。
僕自身そこまで諸手をあげて大賛成、というほどTPPに熱意をもって賛成している訳では全くないですから……
今回はちょっとそれっぽいこと言ってたから、思わず反応してしまいましたが。

一番大きいのは農業従事者に与えるインパクトであって、ほぼそこだけ議論すればいいのに、
賛成派は「TPPに参加しないと制度の枠組みが先に決められてしまう」という「出遅れ論」とか、
反対派は「アメリカ陰謀論」とか、何かと訳のわからない論点がいっぱい出てきてますね。*8

僕の立場をまとめると、
・TPPには(消極的に)賛成
・TPPにはそこまで積極的になるほどのメリットもないが、ややメリットがあると思っている*9
・TPPは確実に農業を滅ぼす
・TPPはそこまで騒ぐことではない(ただし農家を除く)

  • 追記

今話題のTPPに言及したということで、一日ではてブが3つついたり、
なかなか注目度が高いようです。
はてブのコメントで一つ面白いのがあったのでとりあげます。

yingze
TPPではなくEPAではだめなのだろうか? 日本はシンガポールベトナム・ペルー・チリ・マレーシアとは既にEPAを結んでいるので、アメリカ、オーストラリアともEPAFTPでも結べば良いと思う

EPAってなんだっけ、というと、経済連携協定
Economic Partnership Agreementです。
FTAはFreeTradeAgreement自由貿易協定のこと。
確かにEPAでもいいと思います。
けどそれなら最初からTPPで包括的に協定結べばええやん?というのが今回の案なんですよ。

環太平洋経済連携協定(TPP)に日本が加わると、参加10カ国の国内総生産(GDP)合計に占める日米両国の割合は96%に達する。「TPPは事実上の日米自由貿易協定(FTA)」と指摘される理由がここにある。ではなぜ、日本政府は2国間のFTAではなく、多国間のTPPを目指すのか。出遅れた貿易自由化競争で、逆転を目指す狙いが隠されている。(1面参照)

  • 追記2

とりあえず「いやGDPで比較するのが正しいんだ」という反論を正すのにはうんざりしたので、
その主張をしたい方は日経が同趣旨の記事を書いてたので、今後は日経新聞に言ってください。
僕はもう「馬鹿馬鹿しい」ので答えません。

(3)なぜ日米FTAではないのか アジアと連携強化狙う

 GDPでは日米両国が9割超を占めるが、貿易額では両国の比重はそれほど高くない。例えば2010年の日本の対TPP参加国貿易額に占める米国の割合は52%。残りは豪州(17%)やマレーシア(11%)などアジア諸国だ。TPPの主眼は米国との自由貿易拡大に加え、今後成長が見込まれるアジア太平洋諸国との経済連携強化にある。

 TPPが最終形として目指すのは、より多くの国が参加するアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)。日米をはじめとする資本主義国でアジアの自由貿易ルールを作り、中国を将来引き込む思惑もある。日本にはTPPに参加することで、2国間FTAで出遅れた経済連携を一気に「面」で展開できる利点がある。

 TPPには、交渉余地が大きいというメリットもある。日米2国間で協議を進めるのとは違い、医療分野などで他国と利害が一致すれば共闘が可能。米国の要望を一方的に受け入れざるを得ないという状況にはなりにくい。交渉に早く参加すれば、日本に有利に議論を進めることも可能だ。

 米国も2国間協議から地域の包括連携に傾いている。米韓FTAで署名から批准まで4年かかるなど、議会承認を考慮すると費用対効果が薄いとみているからだ。世界の自由貿易の枠組みである世界貿易機関WTO)の多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)は米国と中国など新興国の対立で頓挫しており、主要国が各地域で自由貿易圏をそれぞれ形成する展開になっている。

*1:一言で言うと、大した問題じゃないのでどうでもいいという立場です。積極的に賛成・反対する理由がないという考え

*2:こういう間違いを指摘してにやにやできるのは経済学部で真面目に勉強した唯一の利点かもしれません。

*3:一次ソースは2011年のIMFが出してるWorld Economic Outlookから。元の数字は確認してません

*4:書くまでもないかもしれませんが、TPP参加予定国の輸入額を全て足しあわせたもの(100%)に対する各国の輸入額の割合を示しています。以下同じです

*5:個人的には日本人が世界で一番味にうるさい民族だと思います僕は

*6:ただTPP反対派が「アメリカ陰謀論」「日本が滅びる!」などのヒステリーを起こしているのは気になる。TPPにはもっと論理的に反対できる点がたくさんあると思うのに

*7:「世界の平均関税率」等のグラフがあればはっきり長期的に右下がりの美しいグラフになるんですが、ちょっといいのが見つかりませんでした。クルーグマンの「国際経済学」なんかには載ってたと思います

*8:個人的な考えでは、彼ら経済の議論をしたくないんですよ。政治論とか陰謀論とかの方が楽しい人達なんです。何の意味もないと思うんですが

*9:ちゃんと試算を見たわけでなく、あくまで「国際貿易論の常識」から