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四十三庵

蔀の雑記帳

僕が1年以内に死ぬ確率は0.053%です

論考

死生観とそれを渦巻く現代人の価値観・社会制度
この記事に触発された訳ではないですが、今回は「死」についての記事です。

『配偶者もいない、子供も生まない、贅沢ややりたいこともやり尽くしていく。じゃあ、歳をとる・生き続けるという目的意識はあるんですか?』

『生きる屍ッス』ね。ないんです。
(上記記事本文から)

私が介護を受ける人間に対して不憫だと思い、それを半ば強引に延命させる事を善とすることに疑問をもったのは祖父が脳卒中で倒れた経験から老人ホームに入った後の話です。

受ける側になったことないが、普段あまり感情的にならない祖父がみんなの前でボロボロ泣いているのを私は忘れられない。これほど不自由な身分に人間をしておいて、それを『最高の設備・体制・保護』などというのだから、私は灯油のひとつもぶちまけたい気分だった。

勘違いして欲しくない事はこれは老人批判ではなく、道徳や社会制度への批判です。
老人を攻めているのではなく、むしろ哀れんでいます。彼らが信じて進んできた資本主義・豊かさの追求の成れの果てがこれほどまでに無気力と欺瞞に満ちている事、そのくせに生きる目的も無く、ただただ『健康は善』、『長生きこそが素晴らしい』と言われている。…生きたい奴だけが生きればいいし、必要とされる場所や選択肢・機会を見つけられてこその長生きだが、そういう話になっていない。

そのことに対する抗議がこの記事であり、「生きる屍」というのは未婚・子供無しのまま老いようとする人間に対して言った言葉です。生き方を選択する事は自由はそれぞれにあると思いますが、その選択の中に確固たる死生観・価値基準が判断材料として含まれているのかということ今一度問いただしたくこの記事を書きました。
(上記記事コメントから)

これは確かに「個人の生き方の理想」としてはその通りで、僕も今の世の中「生きる屍」となっている人は多いと思っています。
そして「ああはなりたくないな」と見るたびに思います。

しかし「生きる屍の群れ」の裏にある原因はなんでしょうか?
それは平均寿命の伸びです。
平均寿命が伸びたせいで、特に生きる目的もなくて死んでもいいけれど、死ぬ勇気もない人間というのは、
よっぽど運が悪くない限り死にません。本当に死にません。
日本という国はそれだけ豊かで、安全で、医療が充実しているということです。
今回の記事では、「いかに日本人は死なないか」ということを、統計的にお見せしましょう。

  • あなたが1年以内に死亡する確率は極めて低い

僕は今年で21歳になります。
今は20歳です。
さて丸々20年生きてきて、周囲で死んだ人というのが、ほとんどいません。
父方の祖父が数年前に死にました。
後小学校の頃、同級生の弟(五歳くらい)が肺炎をこじらせて亡くなったということをききました。
そのぐらいなんです。

多分この記事を読んでいる20歳前後のあなたも、状況は同じなのではないかと思います。
もしかしたら友達や家族の死を経験している人もいるかもしれませんが、おそらく少数派でしょう。
そういう人がもしいたら、
「なぜそんなことが言えるんだ! たまたまお前が幸運だっただけだ!」
と怒られてしまいそうですが、それは違います。
「日本人が死ぬ」ということは、ものすごく珍しいことなのです。

厚生労働省が出している「生命表」という統計資料には、日本人の死亡率や平均寿命が計算されています。
細かい話は置いておくとして、死亡率というのを見てみましょう。
これは「x歳の人がx歳で死んでしまう確率」を表しています。
もし20歳男の死亡率が1%であれば、僕と同い年の100人に1人は1年以内に死ぬことになります。
平成21年簡易生命表(男)
平成21年簡易生命表(女)

平成21年の時点では、日本人の最高寿命が105歳だったようで、105歳で死亡率は100%となっています。
男性よりも女性の方が全年代に渡って死亡率が若干低いです。
これは日本だけじゃなくて、どこの国でも大体そうなってますから、何か生物学的な原因があるのかもしれません。

これ見たらわかる通り、日本人の死亡率というのは極端に低いんですね。
あまりに低すぎて、65歳以下の変動がわかりづらいので、次は高齢者を切ったグラフを見ましょう。

(参考)
長寿
こちらに日本人の長寿記録が載っていますので、気になれば。
105歳以上生きていた日本人もいました。


乳幼児の死亡率がやや高くなっています。
子供は体が弱いですから、3歳超えるまでは気を付けないとダメ、というのが統計からも読み取れる訳です。
高くなっているといってもせいぜい0.2%で、発展途上国から見たらクレイジーな数値でしょうけどね……

さっき死亡率の説明のときに「20歳男の死亡率が1%であれば……」という書き方をしましたが、
実際に死亡率が1%になるのは、男性であれば63歳を超えてから。
女性は60超えてもまだ1%に達しません。73歳から。お、恐ろしい……
具体的な表は、上に貼りつけた厚生労働省の「平成21年簡易生命表」を参照して頂きたいのですが、
読者の便宜のために20歳刻みくらいで転載しますと、

20歳の男性の死亡率は「0.053%」。
40歳男性で「0.136%」。
60歳男性で「0.825%」。
80歳男性で「5.525%」。
100歳男性「31.300%」

20歳女性で「0.025%」。
40歳女性で「0.073%」。
60歳女性で「0.343%」。
80歳女性で「2.610%」。
100歳女性「24.618%」。

この記事のタイトルにあるとおり、20歳男性(つまり僕)の死亡率は0.053%となっています。
これはどういう根拠かというと、20歳男性人口が1万人だとしたら、53人の死亡届を受理した、ということなのでしょう。
僕の調べによると、大体60万人くらい20歳男性人口があるようなので、約3000人くらいが死亡したようです。
100歳まで来るとようやく同世代の4人に1人が死んでいく状態になるようです。*1
たとえば大学に通っていて、同級生の死というのはそうそう出会いません。
それもそのはずで、19〜22歳代の人間の死なんていうのは、確率的には小数点二桁目の、極めて珍しい現象だからです。
(関連)
平成21年人口動態統計の年間推計
によると、平成21年度の日本の死亡者数は約114万人。
ちなみに生まれたのは約107万人。

  • 平均寿命

生命表の一番右の列には「平均余命」というのも載っています。
普通「日本人の平均寿命」という場合、この表の「0歳児の平均余命」を見て言っているようですね。

男性 79.59歳
女性 86.44歳
(平成21年度)

もちろん「平均」という概念に注意しないといけません。
80歳が平均、と言っても、100歳まで生きる人と60歳でぽっくり死んでしまう人が相殺されてますし、
80ぴったりで死ぬ人もいる訳です。
平均点が50点のテストでも、英語が苦手なあなたは10点とってしまったことがあるでしょう。
平均というのはあくまでそういう「ばらつき」を捨象した概念なのです。

日本人の平均寿命は大体80歳となっていますが、「寿命中位数」(中央値)は、もっと長くなっています。

これがどういうことかというと、今0歳児の人口が仮に100万人いるとします。
平均寿命は80歳です。
さっきも言ったとおり、「平均」という概念は異常値の存在によって結構実像から遠ざかる場合があります。
では少し目先を変えて、「人口が半分になる年齢」つまり「人口が50万人になる年齢」というのを考えてみましょう。
それが「寿命中位数」という数値です。
そしてこれは(繰り返しますが)平均寿命よりも高い値になっています。
つまり今現在80歳前後の世代の、半分の人間が、平均寿命より長く生きているということです。

長寿大国の看板は伊達ではありません。

  • 「死なない社会」に生きている日本人

上の数字を見て、いかに日本人が死なないかということがはっきりしたと思います。
最初の話に戻りますが、「生きる屍」がなぜ生まれるかというと、
答えは「自殺しない限り、確率的にはほぼ死なない」からです。

またサブカルの中で「人の死」がものすごく衝撃的なネタとして使われているのも
普段はあまり意識してませんが、我々が普段「死」に全然接していないことに起因しています。*2

だから本当に自分の理想通りの最期を迎えるには、もう現代には自殺以外の手段は残っていないんですよ。
タバコスパスパ吸って、酒飲みまくって、散々不健康な生活送っても、
結局医者に行けば病気は治療されてしまって、闘病生活になるかもしれませんが、死ぬことはそうそうありません。
幽遊白書」ばりにトラックに轢かれそうな子供でも見つかればいいんですけど、そうそういないですよね。

  • 社会制度の問題

自殺を選ばない/選べない「普通の人」の死は、今の日本ではこれほどまで難しい(珍しい)ことなのです。
2ch上で「年金をさっさと辞めろ」「俺は絶対年金なんかもらう年まで生きねえ」と息巻いている人々も、
その大半はおそらく年金もらうことになるのです。

いくら下々が「年金廃止しろ」と叫んでも、お役人がシカトしてるのは、
下々は自分たちの平均寿命の統計の知識すらなく叫んでいるのに対して、
お役人は下々の平均寿命くらいはわかっていて、
「どうせこいつらピーチク騒いでても年取ったら年金受給者になるんだろうな」
と読めているからです。

  • 出典(再掲)

平成21年簡易生命表(男)
平成21年簡易生命表(女)

  • 関連

なぜ年金制度が存在するのか

年金制度は、万が一うっかり長生きしてしまうリスクを回避するための制度である。

老後の生活保障が難しいのは、「人は自分が何歳で死ぬのかわからない」からである。自分が何歳で死ぬのかわかっていれば、若いときに貯蓄しておけば済む話である(インフレや資産運用のリスクは、ここでは考えない)。

しかし、人間は突然に死んでしまったり、なかなか死ななかったりする。年金はこの「長生きしてしまうリスク」を回避するシステムなのである。「年金なんて損するだけだよ。郵便貯金でもしておいたほうがいいよ」と言っている人は、万が一長生きしてしまったらどうするのだろう。運悪く、100歳まで生きてしまうかもしれない。定年後の40年間もの生活保障を、貯金だけでまかなえるのだろうか。

年金は、みんなで少しずつ負担することで、万が一長生きしてしまうリスクを回避する制度であって、決して豊かな老後を保障するものではない。

「長生きするリスク」という表現が非常にシニカルで好きです。
懐かしいなあ。

*1:一応念のため補足しておくと、「100歳まで生きた健康超人」の4人に1人が死んでいるということで、彼らの同世代の大半はその前に死んでしまっています。念のため

*2:例「ノルウェイの森」では恋人が自殺する、「恋空」では恋人がガンで死ぬ、「世界の中心で愛をさけぶ」なんていうのもあったね。「タッチ」では双子の弟の死がストーリーのキーになってる。最近では「あの花」とか。枚挙に暇がない