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四十三庵

蔀の雑記帳

厚い雲の隙間から差し込む一筋の光(黒夢「Headache and Dub Reel Inch」)

11月2日に黒夢のニューアルバム「Headache and Dub Reel Inch」*1が発売になった。*2
「CORKSCREW」から実に13年ぶりのニューアルバム。
普段はアルバムレビューなんかめったに書かないんだけども、13年ぶりということで、珍しく書く。


これがジャケット写真。
曇り空の隙間から雷が落ちている。
このアルバムのテーマを象徴している光景だ。

  • 「CORKSCREW」からの変化

「CORKSCREW」が、恐らく黒夢では一番の名盤だし、
邦楽の中でも相当上位に来る名盤だと思っている。
黒夢というバンドは、初期はV系(当時この言葉は使われていなかった)として人気を得た。
「For Dear」とか「ICE MY LIFE」とか「優しい悲劇」とか、耽美的な曲を化粧したボーカルが歌うバンド。
そんな存在だった。

しかしアルバム「FAKE STAR」のリリースから、路線を大幅に変更。
パンクロック路線の曲を出しまくる。
「Drug Treatment」を間に挟んで、「CORKSCREW」はそのパンク路線の集大成みたいな名盤だ。

Making 誰にでも歌える Sampleみたな歌が
大衆性を振りまいて 夜を賢く襲ってる
(「SPOON & CAFFEINE」)

超高速で流行作る PROGRAMMERがしゃべった
誰だって金を使えば使う程有名になると
(「後遺症-aftereffect-」)

これでヴィジュアル系路線が好きだった女性ファンなんかは急速に離れていったが、
同時に僕のような男性ファンを獲得することになった。*3

「CORKSCREW」は本当に名盤で、捨て曲が一曲もない。
僕はもう何度もきいてるが、未だにアルバム通してきくことが多い。
普通何度かきいたアルバムは飛ばす曲というのが出るものだけど、
このアルバムは本当に「CORKSCREWというアルバム」として完成されてしまっている。

このアルバムのリリース後、黒夢は解散する。
理由ははっきりとはしていないが、清春と人時(ベース)の不仲だと言われる。
清春が全国を回るあまりにハードなライブスケジュールを組みたがるのに、人時がついていけなくなったのだ。*4
清春は同じ過ちをSADSでも繰り返す)
黒夢解散後、新たに結成したSADSでは「忘却の空」というヒット曲をうみだし、それを収録したアルバム「BABYLON」は結構売れた。
しかし僕は「CORKSCREW」ほど良いアルバムではないと思っている。

「CORKSCREW」の攻撃性というのは、
とにかく自分の周りにあるものを片っ端からDisる。
金、大人、社会、そういった漠然とした敵の臭いがするものへの反感で満ちている。

  • そして「Headache and Dub Reel Inch」

それから13年。
清春はSADSもケンカ別れになり、ソロ活動もしながら、
結局黒夢とSADSを両方復活させるという選択をした。
娘は私立小学校に通わせているらしい。*5

パンクとしての黒夢のファンにとっては、今の清春は失望の対象でしかないだろう。
今回のアルバムは3versionあって、通常版、ミュージックビデオ付、ドキュメンタリーフィルム付の三つ。
僕が買う時に言われた店員の言葉。
「三つ同時購入でポスターがついてきますが、いかがでしょうか?」

nirvanaのカートが神格化されているのは、紛れも無く自殺したからだ。
よくカートのすごさを認めたがらない人が、
「ただ若くして自殺したから崇められているだけだ」
と批判しているが、それはその通りで、恐らく生きていれば、
生活のために売れ線の曲も作っただろうし、つまらないテレビのバラエティに出て、
ゴミみたいなタレントにいじられてカメラの前で笑っていただろう。

よくも悪くも清春は大人になったのだ。
もう40超えて、娘も二人いる。
守るものができたのだ。
世の中の見え方も随分変わったのではないだろうか。

13年の歳月は、「CORKSCREW」と「Headache and Dub Reel Inch」との間を大きく隔てている。
「CORKSCREW」の続き、ではない。
「Headache」(頭痛)という名前通り、全体として閉塞感に包まれていて、
シングル曲「ミザリー」なんかもアルバム用に音を編集して、わざと「爽快感のない」ようなRe-mixにしてあって、
じっと耳を澄ましていると本当に頭の深い所が痛くなってくるような音作りになっている。

日本全体が閉塞感に包まれている。
日本という国全体が介護施設で段々と体を弱らせながらそれでも生きながらえて、
やがて来る死を待っている老人のような状態になっている。
このアルバムには洋楽のCDみたいに、歌詞カードの最初に寒い解説が載っている。
その中の清春の言葉を借りれば

「それでも平和ということになっている現実への恐怖」

だという。

「CORKSCREW」では敵は大人だった。社会だった。
黒夢は敵と対立する正義の少年、という設定だった。
しかし13年経って、このアルバムでの視点はもうそんな単純な対立はない。
このアルバムはジャケットの通り、閉塞感漂う日本、暗雲に包まれた社会から差し込む一筋の光なのだ。
ただその光はあまりに頼りなく、恐らく消えてしまうのだろう。

音作りも全然違う。
「CORKSCREW」は生々しいバンドサウンドを強調するため、
わざと音が粗く聞こえるようなアレンジにしてあるが、
「Headache〜」ではエレクトロニカも使いまくっている。
13年の間に、SADS清春ソロで積み重ねてきた音の変化というのが、そのままあらわれている。
13年……

恐らくこのアルバムは「CORKSCREW」より全然売れないだろう。
黒夢ファンからしたら失望の一枚だろう。
それでも聞いて欲しい。
素晴らしいアルバムなんだ。



左;通常版 真ん中;ミュージックビデオ付 右;ドキュメンタリー付。
うーんこのエイベックス商法

  • 収録曲

1. Enter Loop
2. 13 new ache
3. White Lush Movie
4. Someone
5. ミザリー (New Take)
6. アロン (Album ver.)
7. Love Me Do
8. Born To Be Wild (Album ver.)
9. D.P.I.D.C.
10. Starlet
11. Heavenly (Album ver.)
12. Glass Valley’s Oar
13. Spazzy Addiction

*1:タイトルの英語はカッコいいけど、意味は破綻している。「頭痛と馬鹿(Dub)が少しずつ(Inch)巻き込まれていく(Reel)」的な意味だと思われる。歌詞中でも英語は多用しているけれども、英語の使い方はほとんど進歩していない

*2:このアルバム発売を記念して大阪でゲリラライブやってまた強制終了になるいつものCM活動が行われました

*3:あ、僕が黒夢好きになったのは2010年前後の話ですが

*4:ライブを異常にやりまくるバンドというのは解散することが多い

*5:それで金が要るんだろうけど