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四十三庵

蔀の雑記帳

「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 ― 知的人生設計入門」(橘玲)を読んでもお金持ちになれない訳

「金持ち父さん」が流行った時期があったんですが、その流れの中で書かれた本です。
「金持ち父さん」よりはずっと中身のある本だと思いますが、
やや難しい内容を浅く広く扱っているので、数字に不慣れな人は眠くなるかもしれません。
でも中身のない「金持ち本」よりは内容的には随分マシです。

前半はいかにして資産運用するかと不動産・保険の考え方、
後半はいかにして税金を逃れるかという話です。
一番最初に金持ちの方程式として、

資産形成=(収入-支出)+(資産×運用利回り)

というのが出てきます。
エンゼルバンク」というドラゴン桜の作者が書いた漫画でも出てきましたね。
この式自体は至極ごもっともという感じなのですが。
で、ここから得られる示唆として、

金持ちになるには、次の3つの方法しかないことがわかります。

1.収入を増やす
2.支出を減らす
3.運用利回りを上げる

の三つ。
まあ実はこの本、あんまり収入を増やすことには触れられてない
運用利回りを上げる方法と、支出を減らす方法の紹介が9割を占める。

僕はもうこの後批判するだけのつもりなので、
その前に内容を誉めておくと、保険にせよ不動産にせよ税金にせよ、
話はかなり具体的で、「ああよく調べてるな」というのを感じさせます。
マネーロンダリング」の著者だけあって、税金の事情にはやたら詳しくて、知らないことが多かったです。
後、不動産の見方なんかも、巷に溢れている
「持ち家は損! 経済的に考えたら賃貸!」
と叫ぶ論者とは違って、
「地価・住宅価格の動向によって損するかもしれないし、得するかもしれません」
ときちんと書かれていたのも高評価。
「金持ち本」の中では多分一番良心的に書かれてる内容ではないでしょうか。

  • なぜ「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 ― 知的人生設計入門」を読んでもお金持ちになれないのか?

イントロダクションは、こんな話から始まります。

 最初に、「知識社会」について書きます。
 20世紀を席巻した「産業社会」はやがて終焉を迎え、21世紀は「知識社会」の時代になると言われています。これを、「情報化社会」と言い換えても同じです。
 知識社会とは、文字どおり「知識」が特権的な価値を持つ社会ですが、その具体的なイメージはいまひとつ明らかになっていません。しかし、私たちの身近にその格好の例があります。

 2002年FIFAワールドカップの1ヶ月に及ぶ戦いも、ブラジルの5度目の優勝で幕を閉じました。
 日韓共催の今回のワールドカップは、最初からチケット問題で揺れました。とくに日本国内で人気は沸騰し、1枚7000円のチケットがネットオークションでは20万円以上で売られていました。このチケットを手に入れるために、スポンサーの商品を買い漁って抽選の権利をもらい、山のような葉書を送り、ひたすら電話をかけ続けた人も多いと聞きます。
 しかしその一方で、競技場には、ほぼ全試合のチケットを手にし、全国の会場を転々としながら家族で観戦を楽しんでいる人もいました。
 なぜこの人たちは、簡単にチケットを入手できたのでしょうか?
 その理由は簡単です。
 ワールドカップ開幕後の空席問題で明らかになったように、海外販売分のチケットは実際には大量に売れ残っていました。FIFA(国際サッカー協会)が需要を見誤り、スポンサー分や海外販売分を大目に確保してしまったにもかかわらず、だぶついたチケットを日本国内で販売するルートがなかったためです。日本のマスメディアは大量の空席を目にしてはじめて騒ぎ出しましたが、海外での販売不振はずいぶん前から広く知られていました。
 いかにサッカー狂のフーリガンと言えども、ヨーロッパや中南米からわざわざ極東の島国まで大金をはたいてやってくることのできる人間の数は限られています。イギリスやドイツのフーリガン低所得者層や無職の白人がほとんどで、彼らはもともと日本まで来る金を持っていません。競技場に集まったのは、実際は、ほとんどがサッカー好きの旅行者です。参加チームの中には、日本までの旅費が年収に匹敵するような国がいくらでもあるのです。
 売れ残った海外分のチケットを購入する方法は、いたって簡単でした。
(そして以下その方法が語られる。中略)

要するに「賢く生きろ」というエピソードが、このイントロダクションなんです。
なかなか適切なエピソードだと思うんですが、どうでしょう。
その通りで、21世紀は「知識社会」なのです。
知識を持っている者と、持たざる者の間には、埋めがたい差が発生するのです。

……しかし問題は、知識を持っている者の間でも、大きな差が発生するのです。
間違った知識を持つ者と正しい知識を持つ者の間にもまた、埋めがたい差が発生します。
本書の「PART6 もうひとつの人生 13章 海外投資の基礎知識」に書かれている、
海外投資のすすめを読んでみましょう。

 一般に、機関投資家が投資適格とするのは、S&Pの格付でBBB(ムーディーズでBaa)までです。*1  
   (中略)
ところが日本では、投資不適格のBB格まで信用力の落ちている大手都市銀行があります。都銀の中でももっとも格付の高い東京三菱銀行でもBBB格で、A格以外の銀行は、外資系銀行や一部の地方銀行、ネット専業銀行を除いては存在しません。
 それに対して海外に目を向ければ、アメリカ、イギリス、ヨーロッパの大手・名門銀行を中心にAA格以上の金融機関はいくらでもあります。

これは今から見るとお笑いで、その欧州の名門銀行とやらはギリシャ危機で散々疲弊していて、
アメリカの金融機関はいわずもがなの惨状になっています。
一方グローバル化が遅れ、不良債権をしこたま抱え込んでいた日本の都銀は、
業界再編もあってメガバンクとして現在立派に営業していています。
もちろんこの本が書かれたのは2002年末で、
不良債権問題が一番沸騰した時でもあったし、ちょうど外資系金融全盛期でもありました。

人間というのは「権威」に弱い生き物です。
とはきいたことがあると思うんですが、ルイヴィトンのバックもってドヤ顔とか、
そういうレベルの低い次元で考えがちですが、実は橘玲のようなレベルの高い*2人でも、
この「権威」というのが思考のバイアスになることは十分にある。

「欧州の名門銀行」と「日本の都銀」なんて比較すると、前者の方がよさそうですが、
実際は「衰退中の先進国の伝統はある銀行」と「(当時)GDP世界二位の経済大国の不良債権処理中の銀行」であって、
日本に住んでいるのであれば、別にわざわざ海外の金融機関を使わんでもよかったのです。

「知識社会」って恐ろしいですね。

  • 本書で上げられていない身も蓋もないお金持ちになれない原因

さて。
「間違った知識」に基づいて行動したからお金持ちになれない、というよりも、
もっと根本的で、身も蓋もない原因が実は存在します。
これ最初に言ったらもうそれで終わりになってしまうので、最後に回したんですが、
それは何かというと、

読者の「収入」が低い

ということです。
ナンボか費用や投資収益をあげてもですね、肝心要の「収入」の部分を上げるのにはかなわないんですよ。
この本に影響受けた読者が、こせこせ資産運用したり、こせこせ保険切り詰めて、賃貸の良物件探している裏では
こんな本読んでない医者や弁護士が、どんどん「お金持ち」になっていくという悲しい現実があります。
別に専門職でなくても、ただのサラリーマンでも出世競争を勝ち抜いて幹部になっていく奴は、
こんなもん読まないでも、「お金持ち」になれます。

だから、なんだ。その、こんな本読んで現実逃避してないで、もう少し目の前の勉強や仕事をがんばってみたらどうですか?

(参考)
Q.年収一千万以上稼げる仕事を教えてください。A.弁護士、医者、パイロット、大学教授のどれかになりましょう
現代においても刻苦勉励はそれなりに経済的に報われるんだよ、という素晴らしい記事。
と同時に生々しい職業間の賃金格差を浮き彫りにもしている。

(関連記事)
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いかに人間が「権威」に影響を受けるかを書いた本。
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日本人の心の中に巣食う欧米幻想から脱却しよう。

(関連)
橘玲 公式サイト
海外投資を楽しむ会(AIC)
「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 ― 知的人生設計入門」目次・一部本文

*1:まあ格付け機関の存在について書いてあるだけ「良心的」ではあるんですが

*2: