四十三庵

蔀の雑記帳

日本国債(10年物)の利回りが1%ないというパズル


以前もある記事で使いましたが、日本の債務残高というのは欧州各国の比ではありません。
このチャートはGDP比率の債務残高ですから、GDPの大きい日本は割かし有利なチャートになるんですけど、
それでもぶっちぎりの一位。
先日めでたく国の借金が1000兆円を超えたそうです。*1
実質財政破綻状態にあるギリシャよりも普通にGDP比の債務残高が多いという状況になっております。
震災からの復興を考えると、完全に財政赤字の更なる増加は不可避で、
Googleのチャートだと2016年には250%になるという見込みになっていますが、あながち否定できません。*2

それなのに我らが日本は未だに財政危機になりません。
財政危機が取り沙汰されれば、国債の利回りというのは跳ね上がります。
世界経済を大混乱に陥れ、僕の就職口を危うくしているヨーロッパのクソ国家どもの悲惨な国債利回りを見ていきいましょう。
ギリシャ(Greece)

○イタリア(Italy)

○スペイン(Spain)

ポルトガル(Portugal)

アイルランド(Ireland)

所詮GDP比150%ごときで財政不安が起こるようなショボい国家はこんなものでしょう。
ドラゴンボールで言えば、界王拳1.5倍で複雑骨折してベジータにボコボコにされてるような連中です。
我らが日本は2倍でもピンピンしてます。
○日本

しかしふと冷静になって考えてみると、こんなにおかしなことはありません
なぜこんなことが起こるのでしょうか?
(関連)
Italy Versus Japan
経済学者クルーグマンも理解に苦しんでいるようだ。

そもそも経済学的に「適正な債務残高」というのは存在するのでしょうか?
ギリシャの場合GDP比150%くらいで危機に陥りました。
ところが日本は200%でも危機に陥っていません。
このことからもわかる通り、経済学的には「適正な債務残高が何%、何円」というのは存在しません。

どこの大学でも、恐らく財政学で一番最初に習うのは、「リカードの中立命題」*4ではないでしょうか。
これはどういう内容かというと、
「理論的には、政府が歳入を増税にするか、国債にするかの差異は、家計の消費行動に対して何の違いも及ぼさない(=中立)」
という命題です。
常識的には思わず「そんな訳ねーだろ」と言ってしまいたくなるような主張です。
リカード本人も「これは現実的でない」というのは書き添えているそうですが、
しかしあくまで「理論的には」これが成り立ちます。
どういうことでしょうか。

二つの極端なパターンを考えてみましょう。
仮に今、政府が10兆円の歳入を必要としているとします。
1.全て税収で賄う
2.全て国債で賄う
のどちらかを資金調達手段としましょう。
するとどうなるか。

1.
全て税収で賄えば、当然今、国民の消費は税金を取られた分減ります。
しかし税金をとられたらそれで終わりなので、将来には消費は回復します。

2.
全て国債で賄うとするなら、税収と違って、現在の収入は減りません。
しかし国民は将来の増税に備えて、貯蓄します。
したがって、増税と違って収入は減らないけれど、それは貯蓄にまわり、消費は減ります。
ここは増税と同じことですね。
そして将来、国債発行した分を政府は増税して償還することになります。

これを表でまとめると
1.

経済主体 会計項目 現在 将来
政府部門 政府歳出 増加 一定
政府部門 租税 増税 一定
民間部門 可処分所得 減少 一定
民間部門 消費 減少 一定
民間部門 貯蓄 減少 一定

2.

経済主体 会計項目 現在 将来
政府部門 政府歳出 増加 一定
政府部門 租税 一定 増税
民間部門 可処分所得 一定 減少
民間部門 消費 一定 減少
民間部門 貯蓄 増加 一定

という関係になります。

更にバローという経済学者は、このリカードの説を世代間に渡っても成り立つ、という風に拡張しました。
リカードの説明だと世代はあまり考えられていませんでしたが、
バローは仮に世代交代があったとしても、親が遺産という形で子供に自分の財産を残すことで、
同じように中立命題が成り立つのだと主張しました。

もちろんギリシャを見るまでもなく、この説は理論の上では反論不可能で、正しいんですが、現実には成り立ちません。
重要な示唆としては、あくまで理論上は「国債発行に上限はない」ということです。
だから理論上は別に債務残高が2000%になったとしても、
我々日本人は将来の増税に備えてちゃんと貯蓄しているので何も心配は要りません。

ところが現実の経済というのはどこまでも不合理にできているので、
ある程度債務残高が積み上がってくると、
「これはやばい」ということで利回りが上昇しはじめ、政府は渋々赤字削減に取り組むことになります。
大半の経済学部の生徒は、この中立命題を講義の中で紹介されて、
教授が「まあ現実には成り立たないけどね」とか説明されて、
「じゃあなんでこんなの教科書に載ってんだ」と思うことになります。
真面目にこの部分を読まれた方は「なんでこいつはこれを説明したんだ」とお思いになるでしょう。
それが正常な感覚というものです。

つまりまとめると、
理論上は無限借り換えでも大丈夫
ということです。
(無限借り換え……10年債10兆円を発行します。10年後その10兆円+利子を返すために10年債を発行します。その10年後にそれを返すために(ryの無限ループ)
しかし現実的には、どっかで国債保有者が「これはやばい」と思ってしまい、資金調達が滞って、
償還が難しくなった時に今回のような財政破綻・デフォルト危機というのが発生することになります。

  • 日本国債の「利回り1%」の秘密

その「これはやばい」という水準、
つまり利回りが急騰しはじめる水準というのはどう決まるのでしょうか?
それは「国債保有者の行動次第」ということになります。
国債保有者が焦って国債を売りはじめれば、債券価格が下がり、利回りは上がり始めます。

では、日本国債は「誰」が持っているのでしょうか、というと、こんな感じ。


(日銀 資金循環統計2011年第2四半期速報
実は異常なまでに外国人保有率が低いのが、日本国債の利回りが1%以下を保っている秘密です。

この馬鹿みたいに国債買ってる「金融仲介機関」って何よ、というと、
日銀のお役所用語だと「預金取扱機関、保険・年金基金、その他金融仲介機関」と但し書きがついてます。
庶民的な言葉になおせば「銀行、保険、年金基金など」のことです。
1000兆円超える、といっても、500兆円以上は彼らが握っている訳です。

もっと細かいものだと、

という風な比率になります。

「銀行はホントしょうがねーなー」と思うかもしれませんが、
銀行が運用してるのは基本的に僕らの預金なので、そんなしょうがねー所に預金してる僕らが国債を買ってる構図に実はなっています。

銀行の預金残高、最高の584兆円に

全国銀行協会の2011年3月末の全国銀行預金・貸出金速報によると、全国銀行(119行)の実質預金残高(小切手や手形を除く)は584兆5062億円となり、公表を開始した1999年10月以降で最高となった。
前年同月に比べて2.9%増で、54か月連続の増加となった。業態別では、都市銀行が同4.4%増の271兆3571億円。地方銀行(2.4%増)や第二地方銀行(1.5%増)、信託銀行(1.1%増)も伸びた。東日本大震災などの影響で企業が手元資金を厚くしており、一部が銀行預金に回ったようだ。
一方、3月末の貸出金残高は421兆1716億円。前年同月比0.8%減だった。業態別では、都市銀行は3.0%減の179兆3940億円だったが、地方銀行(1.6%増)や第二地方銀行(0.9%増)、信託銀行(0.3%増)では増えた。震災需要が出てきたとみられる。

構図としてはですね、

政府がデフレ不況脱却のため国債発行する

日銀もそれにあわせて量的緩和政策を行いマネーサプライを増やす

銀行預金として吸収される

しかしデフレ不況の中で、銀行には信頼できる貸出先がいない

とりあえず国債を買う

デフレ不況が続く

政府がデフレ不況脱却のため(以下無限ループ)

という感じですね。
去年ある機会があって、東京三菱UFJ銀行の財務諸表を見たんですが、
あそこ預金が111兆円ありましたね。
何事ですか、と。

  • まとめ

世界最高水準の財政赤字垂れ流しながらも利回り1%切るという「逆ギリシャ状態」となっているのは、
金が余ってる日本国内の金融機関が積極的に国債を保有しているからです。
この流れがいつまで続くかはわかりません。
どこかで反転する時は必ずやってくると思います。

  • 参考文献

竹田陽介・小牧泰之「マクロ経済学をつかむ」
リカードの中立命題の説明は主にこちらによっています。

*1:地方政府の債務を入れればとっくに1000兆円超えてたんですが、このたび政府債務だけで1000兆円超えるようです

*2:消費税増税すれば少しは違うんだろうけど、社会保障費に当てるって説明してるし、あんまり財政赤字削減は進まない予感

*3:よくわからなければよみ飛ばしてもさほど問題ありません

*4:等価定理とも言うそう。Ricardian eqivalence theoremの訳語