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四十三庵

蔀の雑記帳

若者を食いつぶす日本社会

リスクをとらないリスク。
起業しないリスク。
転職しないリスク。
内向きのリスク。
競争しないリスク。
大企業というリスク。
公務員というリスク。
ベンチャーに行かないというリスク。

  • 若者にリスクをとれと言いつつ

日経とか大前研一*1とかを読んでると、頻繁にこの手の表現が出てくる。
それが若者批判と結びついて、
「草食系の若者よ、リスクをとれ」
みたいな訳のわからない主張をし出したりするんですが、
彼らはそれが仕事なので、責めるに責めれない部分がありまして……
そりゃまあ経済新聞で「不景気だから安定職がやっぱいいよね〜」という論調の記事を量産してたら、
サラリーマンの読者は面白くもなんともない訳で。

読んでて「日経様の正論ンギヂイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ」と思うような記事にしないといけないという制約があるから、
方向性はある程度決まってくる訳だ。
「リスクをとらないのが何だかんだで安全」などという、甚だ爽快感のない論旨は、ちょっと載せられない。

大体日経が主張するような、リスクをとる主体というのは、大企業か若者か、どちらかと相場が決まっている。
(もっと大きく、「日本人よ!」とか「日本よ!」とか書いてあるときもある)
でも少し待ってください。

日経新聞さんはなにかリスクをとってらっしゃるんでしょうか?

新聞なんて常に「第三者的立場」から社会に文句つけてるだけで、なんのリスクもとってないのでは?
あ、世の中、大スクープが欲しくて、
自社で赤珊瑚に落書きするというリスクを犯す素晴らしいリスクテイキングな新聞社*2もあるけど、
日経さんなんか割とリスク避けまくりだと思う。
大前研一だって自分では何してるかって、出版業で生計たててる。
いやなんか僕が知らないだけでなんかコンサルとかその手のビジネスやってんのかもしれないけど、
恐らく一番収益の核になってるのは出版業だ。
きわめてリスク回避的なじいさんで、言ってることとやってることが真逆。

しかしこの
「中高年が自らをちゃっかり安全圏に置きつつ、訳知り顔で若者にリスクをとることを勧める」
という構図は、この手の「リスクとれ」論の典型的なものだと思う。
要は「(俺は出版のアンパイな世界でぬくぬくやってるけど)お前らがんばってリスクとれよ」という話。

1991年のバブル崩壊以来、日本は「失われた二十年」と呼ばれる、経済史上でも稀な長期的景気低迷の中にいる。
これからも景気が上向く見込みはなく、僕も三年近く大学で経済をあれこれ勉強してみたけど、
恐らく日本経済が輝きを取り戻す見込みはほぼゼロだろう。

それがわかってれば、この局面でリスクをとるのがいかに無謀な行為かがわかる。
僕も個人的な感情としては、「つまんねーなあ」とは思うけど、
公務員志望や大企業志向の学生というのは、充分に経済合理的だ。

こんなことを書いてると、「最近の若者はどうしようもないな」と言われそうだけど、二つ反論しよう。
一つ。
僕らの同世代にもリスクをとっている若者は大勢いる。
二つ。
昔も、若者がリスクをとった時代があったけど、ろくな時代ではなかった。

  • 1.充分にリスクを「とらされている」若者たち

若者がリスクを避けてる、なんてとんでもない誤解である。
若者は現状でも充分リスクテイキングである。
これを見て欲しい。
・グラフ1
*3
これだけの若者が非正規雇用で働いている。

正規雇用非正規雇用というのは、法律的にものすごく扱いに差がある。
正社員の雇用は、厳重に守られていて、「整理解雇の四要件」を満たさないと解雇できないのに対し、
非正規雇用は別にそんなもの守る必要もなく、首が切れる。
首を切るというよりも、「何月何日まで働いてもらう」という契約なので、
必要であればいくらでも延長していいし、必要なければ契約を延長しなければ、それがつまりクビということになる。
非正規雇用ほどリスキーな働き方もないと思うのに、
なぜか正規社員の枠に当然のように座っている中高年の方、
ヘタすると正社員どころか、役員とか社長とかのポストに座ってる偉い人々が、
「若者よリスクをとれ!」と仰るけども、既に若者は充分リスクをとっております。
(参考記事)
公務員の雇用が安定している訳
解雇にまつわる諸々、結局公務員って安全だよね、というお話。
あまりに経済的な若者が草食男子・肉食女子化する事情
若者の非正規雇用の広まりを割と真面目にグラフ化した記事。

  • 2.若者がリスクをとった「古き良き」時代

2つ目の論点。
「今の若者は、ホントにリスクを嫌がってけしからん!」と思う方々。
司馬遼太郎の「竜馬がゆく」とかを読んで、「今の日本には坂本竜馬が必要だ!」とか言っちゃう恥ずかしい方々。
安心して下さい。
日本にも若者がリスクをおった時代がありました。
その話を少し書いて、この陰鬱極まりない記事をしめたいと思います。

○1930年 昭和恐慌
1929年に起きたアメリカ発の世界恐慌と、当時の井上準之助蔵相の金解禁政策のダブルパンチで、
日本経済は「昭和恐慌」と呼ばれる、恐ろしい景気後退を体験しました。
小津安二郎の「大学は出たけれど」という映画がヒットしたり*4しました。

○1937年 廬溝橋事件
それから7年後、廬溝橋事件が発生。
満州事変以来ぎくしゃくしていた日本と中国は遂に戦争に突入します。

○1941年 真珠湾攻撃
更に4年後、日本は英米に宣戦布告。
太平洋戦争がはじまります。

太平洋戦争が始まり、日本の若者たちは大量に戦線に投入されていきました。
戦況は徐々に敗色濃厚となってきますが、それでも日本の中高年層は降伏の判断ができず、
「特攻」と呼ばれる究極のリスクテイクを若者に強いました。
(むしろこの辺りは今の中高年世代の方が学校で左翼教師から散々叩きこまれたのではないかと)

若者はあの頃、こんなにもリスクをとっていた(ていうかとらされていた)のです。
ああ、素晴らしき時代!
平成の若者よ! リスクをとろう! 玉と砕けよ!

……歴史は繰り返す、ということですね。
そういえば太平洋戦争の頃の新聞は、どこも勇ましく戦争の成果を伝えていたんでしたね。*5

  • まとめ


「じゃあ俺がリスクをとるよ!」「どうぞ!どうぞ!」

公務員や大企業を目指す若者の皆さんは、ノイズに惑わされずにいたいものですね。
「若者とリスク」というテーマから、次は転職の記事を書きたいと思います。

  • 出典

グラフ1 労働力調査(詳細集計) 平成22年平均(速報)結果平成22年平均(速報)結果の概要(PDF:1,261KB) グラフを用いた解説から

  • 関連記事(「若者批判」批判系)

若者の内向き志向について〜的外れな若者批判の典型として〜
今見るとグラフと数字の載せ方が酷い……
けどまあ昔の当ブログのコメントゲッター的存在の記事でした。
公務員の雇用が安定している訳
あまりに経済的な若者が草食男子・肉食女子化する事情
駅員に切れてる奴は大体中年

*1:いや大前は読んでないんですが……でも多分こんな話してるでしょあの人

*2:朝日新聞とかいう会社らしいです!

*3:学生を除いているかどうかは書いてなかったけど、多分除いてると思われる

*4:お、これどっかできいた話だな?

*5:まあ実際の戦争に比べれば、経済戦争は命まではとられない分優しいんでしょうが