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四十三庵

蔀の雑記帳

蔀(st43)様の薦める今年の十冊

「今年発売された本」ではなく、「今年わたくし蔀様が読んだ本」を紹介する今年の十冊
全く出版業界の流行に乗れていない感は否めないのですが、頑張って書きます。

  • 1.鮮やかな破滅


三島由紀夫の「鏡子の家」は、鏡子というバツ1子持ちの女性の家に集まる男四人の物語です。
商社に務める優秀な会社員、私立大学の通う拳闘家*1(ボクサー)、
日本画界の若き天才画家(童貞)、売れないイケメン俳優(筋トレに目覚める)、
というタイプの全く違う四人が、四者四様の「破滅」をむかえるストーリー。
文壇ではほとんど評価されなかったようですが、
戦後の退廃した雰囲気、破滅的な価値観がよく書かれていて、僕は好きです。
・関連記事
三島由紀夫「鏡子の家」

  • 2.話題の本だが


オセアニア少数民族が、けして知能的には白人に劣っていないのを、
共同生活の中で認識した筆者が「なぜ彼らと先進国の人間の文明にこれほど大きな格差が出来たのか」を歴史的に考察していった本。
一言で括ってしまえば、遠大な「環境決定論」ということになるのだろう。

ややアカデミックな記述スタイルの割に売れているのは、やはりテーマがそれだけ興味深いということなのだろう。
ただ僕はそんなに衝撃を受けなかった。
トリビアルな問題に突っ込みすぎているように思われる。
とりわけ家畜や食料の問題ね。
この辺りの問題意識を著者と共有できるかどうかが、感動するか、なんかピンとこないかの分かれ目になるのだろう。
同趣旨の本であれば、僕は断然

こっちを薦めます。

・関連記事
「銃・病原菌・鉄―1万3000年にわたる人類史の謎」ジャレド ダイアモンド (著), 倉骨 彰 (翻訳)
現代の認識(グレゴリー・クラーク「10万年の世界経済史」)

  • 3.創造性って大事


ファインマン教授の面白エピソード集。
WWⅡ前後のこの時期が、一番物理学が輝いてた時代なんですよね。
自分の知的好奇心に正直だったファインマンさんみたいな人が楽しく研究して、
たくさん新しい発見があって、たくさん業績を残せて、評価されて……
今では「物理学科なんて入っても就職先がない」なんて言われて、理学部系は理系の間では敬遠されてるそうですが……
あ、なんか涙が……そんな本じゃないのに……

・関連記事
リチャード P. ファインマン「ご冗談でしょう、ファインマンさん」岩波現代文庫 訳大貫昌子

  • 4.確実にタイトルで損してる良著


「ヤバい経済学」は面白いことは面白いですが、別に経済学の要素は一個もなくてアレなんですが、
「ヤバい統計学」はかなり真面目な統計学です。
統計学の現実問題への応用ということで、ディズニーランドの待ち時間の減らし方だとか、
ドーピング発見がなぜ難しいかだとか、O-157の感染ルート特定だとか、かなり面白いです。
統計学ときくと、「数式出てくると嫌です」と言う方もいるかもしれませんが、ご安心ください。
数式は一つも出てきません!
「読みもの」としてのバランスもきちんととれています。
数式で使って表している概念を、言葉で説明しています。

・関連記事
カイザー・ファング「ヤバい統計学」

  • 5.アフリカが貧しいのは先進国の搾取ではない


アフリカ、というともうそれだけで貧しいイメージが浮かんできます。
アフリカは「不毛の土地」というイメージですね。

でも知っていますか?
アフリカの地下資源の豊富さを。
ダイヤモンド、鉄鉱石など、日本ではほとんど採掘できない資源がザクザク出てきます。

じゃあなぜいつまでたってもアフリカは経済発展できないのか?
それは誤解で、堅調に経済発展している国もあるのです。
我々は一言でアフリカ、と括りがちですが、国によって事情は随分違うのです。
たとえばジンバブエ
ハイパーインフレで一部では有名な国ですが、この国はムガベ大統領の独裁政権が続いていて、
大統領の親類縁者は贅沢な生活をしていて、庶民は貧しい、という状況が続いています。

「アフリカ人」とひと括りに日本人は考えがちですが、実際は一枚岩ではないのです。

本著は開発援助を志す人であればもちろん必読だし、そういうのが嫌いな人もボランティアやODA批判のために読むべきでしょう。

・関連記事
ロバート・ゲスト「アフリカ 苦悩する大陸」訳伊藤真


投資信託は使い方のよくわからない金融商品です。
この本はそれをわかりやすく、読みやすく書いています。

僕はブックオフで100円で買いましたが、amazonマーケットプレイスでも1円のがあります。

  • 7.語学にお悩みのあなたに


カトーさんは二十カ国語くらい習得された(日本語も含む)ハンガリー人の女なのですが、
元は理系出身で、語学はさほど得意でなかった人が、情熱と努力で語学習得していくプロセスが書かれています。

すごいポジティブ・シンキングな方なので、これを読めば「俺でも六カ国語くらい行けるな」という気になることうけあいです。

  • 8.知的刺激とはこういう本を言うのだ


東大法学部の学生が民法の入門に読んでると言われる*2本です。
非法学部の僕でも楽しく読めたので、きっと法学部の人はもっと楽しいでしょう。

各分野にはこういう「門外漢が読んでも普通に面白い入門」というのがあるものです。
「銃・鉄・病原菌」よりも、こういう本こそ「知的刺激に溢れた本」と呼ばれるべきでしょう。


木戸孝允桂小五郎)について、丹念に調べて、書いてる小説です。
恐らく司馬遼太郎に慣れ親しんで「私歴史小説大好きです」と言ってる方は挫折するだろうと思います。
というのは、作者が学者の方で、人物やストーリーのデフォルメは一切なくて、
ホントに淡々と事実を究明して、それを「研究書というよりは小説という形式で」書いているのが本著です。
僕が中学生だか高校生だかの頃に読んだときは、全然面白いと感じなくて、図書館へそっと返却した記憶があります。

しかし今読むと、その調査の念密さ、描写の正確性には驚かされます。
amazonのリンク画像が「No Image」になっていることからも分かる通り、商業的には失敗してる小説で、
絶版になってしまいましたが、今なお評価が高い歴史小説です。


「人口歴史学」というと耳慣れないかもしれませんが、要は人口増減を歴史的に見る学問分野です。
著者のキトウ先生*3は、縄文時代から現代、そして未来の日本の人口について、
推定値で補完して、わかりやすいグラフを提示してくれています。

「これからの日本」のファンデメンタルを考える上で、必読でしょう。

  • 以上

以上10冊(「十万年の世界経済史」を入れたら11冊だけど)紹介しました。
何か気になる本があったら幸甚です。

特に「知的刺激」という意味でオススメするのは、4,5,8,10です。
年末年始にじっくり読むといいのではないでしょうか。

*1:当時はこう言ったんです

*2:真偽は知らぬ

*3:ホントにそう読むんですよ?