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四十三庵

蔀の雑記帳

鉄鋼業に未来はあるのか?

ともに日経より

  • 記事1

鉄鋼業界、巨額評価損が物語る危機的経営環境
証券部 奥貴史
(1/2ページ)2012/1/19 17:37

新日本製鉄846億円、住友金属工業798億円、JFEホールディングス810億円……。鉄鋼大手が2012年3月期、突如として巨額の投資有価証券評価損の計上に追われている。神戸製鋼所を含めた高炉大手4社の評価損総額は約2600億円に膨らんだ。他業界を見渡すと、足元で巨額の評価損を計上するといった動きはほとんどみられない。今なぜ、鉄鋼業界にだけこんなことが起こるのか。

 新日鉄と神戸鋼は11年4〜12月期に、JFEと住金は同4〜9月期に評価損を計上した。その中身を見ると、ほとんどが持ち合いなどの同業株の下落によるものだ。新日鉄は846億円のうち800億円近くが持ち合い関係にある住金株の下落によるものとみられる。逆に住金も大半が新日鉄株の下落を反映させたもの。神戸鋼が計上した138億円も新日鉄株の下落が響いている。JFEは10年秋以降に15%弱出資したインドの大手鉄鋼メーカー、JSWスチールの株価下落が評価損の大半を占めた。

 保有する株式の時価が簿価(取得価格)の半値を下回った場合、企業は会計ルール上、強制的に含み損相当分を評価損として計上しなければいけない。新日鉄や住金は持ち合いを始めた2002年以降、1度も簿価の切り下げ(評価損の計上)をしたことがなかった。08年9月のリーマン・ショック後の世界同時株安局面では、多くの日本企業が投資有価証券評価損の計上を迫られ苦しんだが、そのころも鉄鋼業界の持ち合い株だけは評価損とは無縁だった。

 他業界はリーマン直後に評価損を出して今や保有株の簿価が相当切り下がったため、足元の株安局面でも評価損はそうは出てこない。だが鉄鋼株はリーマン直後を無傷で切り抜けられたがために、簿価が高いままだった。そのツケが今、とうとう出てきてしまったというわけだ。

これが意味するのは、今の鉄鋼株がリーマン直後の底値よりも低水準にあるという厳しい現実だ。実際、リーマン・ショック直前と足元の株価水準を比べると、日経平均株価が3割弱の下落なのに対して新日鉄は6割弱、JFEや住金に至っては7割近い下落率となってしまっている。
 なぜ鉄鋼株はこんなに安くなってしまったのか。そこには利益率の低下という大きな構造問題が潜んでいる。新日鉄の場合、リーマン・ショックがあった09年3月期の鋼材1トンあたりマージン(日経試算)は約6万3千円程度あった。それが10年3月期は5万6千円程度に下落、11年3月期は4万円台にまで落ち込んだ。今期はとうとう4万円を割り込む場面も出てきている。

 マージンは鋼材販売価格から鉄鉱石と原料炭といった主原料コストを引いて算出する。マージン低下は言い換えれば、資源高を販売価格に転嫁できなくなっているということだ。中国の宝山鋼鉄や韓国ポスコ、現代製鉄などライバルがここ数年増産を続けているため、アジア全体では鋼材の慢性的な供給過剰状態が続いている。そこに円高という逆風も加わり、日本の鉄鋼メーカーにとっては円ベースで値上げが通る環境ではなくなってしまっているのだ。

 足元の欧州不安はさておき、世界景気はリーマン・ショックの後遺症から年々立ち直ってきた。しかし鋼材のマージン、言い換えれば鉄鋼メーカーの稼ぐ力は立ち直るどころか年々悪化を続けている。円高の定着もあり、株式市場では「この構造問題は当面解消できそうにない」(大手投信)との見方が大勢を占める。それが鉄鋼株の長期下落傾向につながっているのは間違いない。そして今期、とうとう各社が持つ同業株の株価が簿価の半値を割り込む水準にまで落ちてきてしまい、巨額の評価損につながった。

 鉄鋼業界が置かれている今の経営環境はリーマン直後よりもはるかに悪い。それは経営者自身が最も痛感しているのだろう。新日鉄と住金が合併を決断したのも、「このままだと会社の存続すら危うくなる」(新日鉄首脳)と言う危機感が高まったからにほかならない。

  • 記事2

鉄鋼大手の収益が一段と悪化する。新日本製鉄の2012年3月期の連結経常利益は、前期と比べて4割減の1300億円程度になる見通しだ。従来予想は2割減の1800億円。アジア勢との競争激化や円高の影響で、鋼材価格が下がり採算が悪化している。JFEホールディングスや住友金属工業の経常利益も数百億円規模で下振れしそうだ。

 新日鉄とJFEは今期の粗鋼生産計画をそれぞれ100万トン程度下方修正する見通し。タイ洪水の影響で自動車向け出荷が一時停滞したうえ、不採算の輸出を絞り込まざるをえないからだ。新日鉄の今期の粗鋼生産(単独ベース)は前期比8%減の3千万トン程度にとどまりそうだ。

 国内では、円高を背景に韓国や中国からの輸入が増え、鋼材価格の下落が止まらない。自動車や造船など円高に苦しむ主要顧客の値下げ要求も強まっている。ここ数年力を入れてきたアジア市場への輸出も、韓国ポスコがウォン安を武器に安値で攻勢をかけており、原料高を価格に転嫁するのが難しい。

 JFEと住金は今期の経常利益をともに1000億円と見込んでいるが、下方修正する公算が大きい。

 本業の苦戦に株安も追い打ちをかける。新日鉄は住金株など持ち合い株の下落を主因に4〜12月期に846億円の投資有価証券評価損を特別損失として計上する。株価が戻らないと、850億円を見込む今期の純利益は大幅に減少する。JFEと住金は今期の純利益を200億円、ゼロと見込んでいるが、ともに赤字に陥る可能性がある。

 新日鉄と住金は今秋合併する。両社の経営資源を海外に投入し、アジア勢との競争や円高に耐えられる生産体制の構築を急ぐ狙いがある。

  • 鉄鉱石価格

[世] 鉄鉱石価格の推移(年次:1980〜2011年)

苦境は続きそうである。