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四十三庵

蔀の雑記帳

わかりやすい説明をするためには

池上彰が流行ったとき、「わかりやすい説明」ができるというだけでテレビでひっぱりだこになった。
世の中の学校や職場で、説明が下手な人間が教師をやったり指導役をやったりするせいで、社会的な時間ロスが起きてると僕は考えている。
よりわかりやすい説明だけを残して、何かにまとめて、学校ではそれを使って教えればいいと思ってる。
大学の教科書も、同じ分野のモノでも何十冊も書かれているが、実際に大多数の学生が使うスタンダードが出来てしまう。
説明力による自然淘汰が起こっている訳だ。

僕は昔から教えるのが上手いと友達から言われてた。*1
ただそれでも、何でも相手にわかりやすく説明できる訳ではない。
わかりやすい説明とは一体なんなのだろうか。

  • 授業の理解度

こんな経験はないだろうか。
「今年の大河ドラマ、なんかペース速いね。3月なのにもう大政奉還のシーンになった」
大政奉還ってなに?」
「えっ! 中学か高校の歴史でやらなかった?」
みたいな、人と話しているときに、中学高校の教科書には載っている内容なのに、自分は全然知らなかった経験。
単に忘れてしまっただけで、昔の教科書を引っ張り出せば思い出すかもしれない。
けど、Wikipediaを見ても教科書を見ても、どうしても新しい記憶のようにしか思えないとしたら。
おそらく、中学や高校の歴史の授業をあまり真面目に聞いていなかったのだろう。
ちょうど大政奉還の話をしているときに寝ていたのかもしれない。

授業をやるときに、教師の伝えたい内容が100%生徒に伝わることは絶対にない。
100%伝わっていれば、全員の生徒が100点とれるはずなのだが、現実そんなはずはない。
これは大きくわけて2つの理由がある。

1)教師の説明が下手
2)生徒が説明をきちんと理解していない

仮に教師の説明が完璧で、池上彰並にわかりやすい説明をしても、
生徒があまり聞いてなかったり、前提となる知識が欠けていたり、
理解力が極端に欠落してたりすると、わかってもらえない場合もある。

したがってわかりやすい授業をするためには、教師側の努力だけでなく、生徒の側も、100%理解できるように努めなくてはならない。

これは別に授業をやるだけの話ではなく、あらゆる説明の場面で重要なことだ。
理解できる下地がない相手には、どれだけわかりやすい説明をしてもわかってもらえない。

  • わかりやすい説明の2パターン

ただ理解できる下地がない相手にも、わかりやすい説明ができる人だと思ってもらえる方法が実はある。
わかりやすい説明には実は2つのパターンがある。

1.説明を上手くする
2.難しいことを削る

この2.の方法をとれば、理解できる下地がない人でも、「わかった気」になってもらえる。
悲しいことに、世の中でわかりやすい説明と言われているほとんどは後者の方だ。
難しいことを上手く説明して、相手にわかってもらうという池上彰流のやり方は、実はかなり難しい。

昔簿記3級を受けた時に、一番最初に使ったテキストがすごくわかりやすかった。
「一週間でマスター!日商簿記3級」みたいなテキストだった。
で、そのテキストを一周した後に問題集やろうとしたら、これが全く解けない。
それもそのはずで、テキストではすごく簡単化された問題例をもとに解説を加えていくスタイルで、7日目にやっと簿記一巡が終わる始末だった。
当然厄介な前受金や未払金の処理なんて書いてなかったし、P/LとB/Sの意味とつながりも全く理解できなかった。
このように理解しづらい概念を省いて、極限まで簡単化して、作業ベースに落とし込めば、
どんな馬鹿にでもわかりやすいと言ってもらえる素晴らしいテキストができる。
(ただし試験は一切解けない)

当然僕がこの記事で「わかりやすい説明」と言ってるときに指しているのは、1.の方だ。

往々にして「説明のわかりやすさ」と「説明の正確さ」には、トレードオフの関係が成り立つ。
特に学問のような、正確な定義が重要になるものであれば尚更だ。
学校の授業がわかりづらい場合、正確誠実にその学問を説明しようとしていることもある。

池上彰の説明が理想的なのは、この「わかりやすさ」と「正確さ」を両立させているところにある。

  • わかりやすい説明をするための6つのポイント

わかりやすい説明をするために重要なポイントを思いつくままに列挙してみた。
1〜3は説明そのものをわかりやすくするため、4〜6は説明を理解しようというモチベーションを相手に与えるために必要なこと。

1.相手の理解度にあわせる
小学生に「池上彰の説明わかりやすいから、パレスチナ問題についてこれで理解しろ!」と言っても無理な話だろう。
簿記3級を受けようとしている相手に、公認会計士が「そもそも会計の本質とは…」みたいな深い話をしてもやはり無理だ。
知識がない相手には、初歩的なことから説明しなければならない。
小学生に国際問題を説明したいなら、世界地図を見せて、アメリカと日本の場所を教えることが先だろうし、
簿記3級受験者には、複式簿記の貸方と借方が右と左どっちなのかを教えてやるところからスタートすべきだ。

常に簡単に教えればいい訳じゃなくて、公認会計士相手だったら、基礎知識は当然あるだろうから、発展的なものから説明すればいい。

2.説明の順番に気をつける
デカルトは「難問は、できるだけ分解して考えろ」と説いた。
人に何か説明する時も、この考えは大切で、できるだけ分解することだ。
そしていくつかのパートに分解したら、簡単なことから順番に説明していく。
時系列に並べられるようなら時系列に。
とにかく相手の頭が理解しやすい順番に並べることだ。

3.抽象論は具体例を使いながら説明する
抽象論よりも具体論の方が人間の頭は理解しやすい
目の前でリンゴが落ちてくるという現象は理解できるけれども、
重力という力が地球上の物体に働いているという物理学の理論は理解しづらい。

4.それがなぜ重要なのかを示す
人間の頭は重要度が低いと見做すと全然働いてくれないものだ。
「学校の勉強なんて役に立たない」っつーのは事実ではあるんだけど、あんまり子供にそういうこと言わ無い方がいいなあと僕が思うのは、
役に立たないと子供が本当に信じこむと、学校の授業が全然頭に入ってこないだろうなと思うからだ。

重要度を示すことは、最低限の説明であれば必要ないんだけども、僕は可能な限りすべきだと思っている。

5.どのように活用されているのかを示す
重要度とも関連することだけども、実際にどう活用されているのかを示すこともモチベーションを上げるために重要だ。
難解な理論も「実際にこんな場面で使われてます」と示すことで、学ぶモチベーションができる。

6.面白いネタがあればガンガン入れる
僕が高校のときに授業受けた、すごくわかりやすい日本史教師は、
テストには絶対出ない面白歴史ネタをガンガンプリントの中に入れてきた。
人間の頭はつまらないことよりも面白いことの方が記憶に残りやすくできているので、
そういう雑談によって、理解が助けられたりする。

  • わかりやすい説明の限界

最後に身も蓋もないことを書いて終わるが、どんなにわかりやすい説明をしようと頑張っても、本当に難しいことはわかりやすい説明なんてできない。
「わかりやすい相対性理論」とか「猿でもわかる◯◯」みたいな本が世の中たくさんあるけど、
本当の意味で難解な理論を理解するためには、それ相応の勉強が必要になる。

ただ難解な理論が、学者の説明のわかりづらさのせいで更に難解になってるケースは、
大学でよく見るので、わかりやすい説明には努めて欲しいなあと思う。
(了)

*1:それで調子に乗って教職課程とってたりしたんだけども