四十三庵

蔀の雑記帳

携帯の2年縛りの解約金の正当性についての裁判

最近の携帯電話は、「二年縛り」が当然のようについている。
携帯を買ってから二年たったタイミングで解約しないと、解約金9975円をとられる仕組みになっている。
機種変更だと解約金かからないとはいえ、現状の乗り換え優遇の価格設定では、同キャリア内で機種変更し続けるインセンティブは全くない。

そんな解約金について、真正面から訴訟した事案があった。
NPO法人京都消費者契約ネットワークという組織*1が、docomoKDDIソフトバンクの三大キャリアに対して、
解約金は消費者の権利を損害するとして訴訟を起こしている。
結果から言うと高裁判決では三大キャリア全てに敗訴で、現在上告中である。
恐らく最高裁でも勝てる見込みは薄い。
けれども僕も解約金は消費者の権利を侵害していると思っていたので、面白い裁判だと思った。

  • 争点

争点は3点ある。

1.中途解約金は消費者契約法に定める「違約金」にあたるか
2.中途解約金の額は「平均的な損害の額」を超えるか(消費者契約法9条に反するか)
3.「消費者の利益を一方的に害する」といえるか(消費者契約法10条に反するか)

争点1は争点2の前提になっていて、争点2は争点3の前提になっている。

基本的にはどの判決でも、争点1は認められている。
認められなかったのが争点2で、携帯キャリアがこうむる平均損害額が解約金を上回るから、解約金9975円は合法ということになっている。

具体的な平均損害額も、判決の中で示されている。

docomo(高裁判決) 2万4800円
KDDI(同上) 4万9640円
ソフトバンク(同上) 4万7689円

高裁判決に従えば、携帯キャリア様はユーザーの途中解約で2万4800円〜4万9640円の損失を被っており、
それでもユーザーの便益のために9975円という格安の解約金を設定している*2どこまでもユーザー思いの優良企業ということになる。

  • どのように平均損害額を算出したのか?

この裁判の実質的な争点は、

2.中途解約金の額は「平均的な損害の額」を超えるか(消費者契約法9条に反するか)

この一点であると言ってもいい。
そもそも、この一連の裁判がネット上で話題になったのは、地裁でKDDIの解約金が一部無効という判決が出たからだ。

その判決がどういうロジックで出たのかというと、
KDDIの解約による損害は、契約から1月後に解約されたら9万6000円、1月ごとに損害が4000円減っていくという計算で算出された。

これで考えると、22ヶ月目の解約と23ヶ月目の解約によるKDDIの損失は、解約金9975円を下回っており、解約金は消費者の利益を害している。
したがって、この2ヶ月の解約者に対しては、解約金は不当に高すぎる、というのが判決の要旨である。

ただこの判決はあくまで解約金の正当性を否定するものではない。
また、docomoの地裁判決では、解約月別のユーザーの損失で計算するのではなく、
解約したユーザーすべての平均で議論が行われており、平均的な損害は30,240円とされている。
更に、ソフトバンクの地裁判決では、また違うロジックで算出されていて、その損害額は12,964円。
ソフトバンクは平均的な解約月×(ARPU-不要になったコスト)で損害額を算出すべきと主張したんだけども、
ARPU:Average Revenue Per Userで、ユーザー一人あたりから得る平均収入。要はユーザーが月のケータイ利用料金の平均)
ARPUにはインターネット通信料や通話料など、利用状況によって大きく変動するものが含まれているので、
その変動費を除いた、基本料金のみで損害額を算出した。
その結果、12,964円という、三大キャリアの中でもっとも安い金額となった。

地裁の判決のポイントをまとめると、

と、期間や何を損失とみるかでだいぶ内容がわかれているのがわかる。

更に高裁だと、平均損失額の算定はまた別の方法で行われている。
高裁では一審のKDDIの月ごとのユーザーの損失額という考え方は使われていない。
「平均的な損害の額」という文言を考えると、やはり全ユーザーの平均を使うのが適切なのかもしれない。

で、docomoの高裁判決では、

使用料金の月毎の平均割引額(1837円)×一般に解約された時点までの平均契約継続期間(13.5ヶ月)≒2万4800円

という算出方法になっている。
逸失利益は全て認めず、実損失に限るという考えから、
「解約したユーザーにそれまで行った割引金額=実損失」が平均的な損害額になるという考えだ。

一方KDDIの高裁判決では、むしろ逸失利益が平均的な損害額として計算されており、
月4000円×解約された場合の平均残存契約期間=4,9640円
という算出が行われた。これは一審の判決と損害額は同じだが、期間が「月ごと」から「平均残存期間」に変わっている。
ソフトバンクもほぼ同様の算出方法。

  • どう損害額を算出したら納得できるか?

以上見てきた通り、損害額とそれを算出するロジックは大きく異なっている。

キャリア 地裁 高裁
docomo 30,240 24,800
KDDI 4000円×契約残存期間 4,9640
ソフトバンク 12,964 47,689

どの判決にせよ、解約金9975円を上回っている

しかしこの「逸失利益」が解約金を上回っていればよいというロジックなら、
ウォータサーバーを二年契約結ばせて、はじめの月はゼロ円とかにして、
二ヶ月目から4000円とかにして、無理くり契約とって、解約金9975円を請求しても、法的には問題ないことになる。

そもそも解約金を取り出したのっていつからかと考えると、docomoだとファミ割MAXが導入された2007年くらいからのようだ。
ファミ割MAXに入ると、二年縛りがつく代わりに基本使用料が半額になる。
タイプSSバリューで組むと、月980円の基本使用料。
ファミ割MAXに入らないと1957円。
ユーザー視点で見ると、一年以上契約すればだいたい元はとれる。

この解約金制度のカラクリを考えると、「実損害」で考えるというdocomoの高裁判決の24,800円というのは、
他の判決と算出法がだいぶ違うのだけれど、一番納得感がある。*3
原告側は、実損害額×解約月別のユーザー という形で主張するしかないのかな。
そしたら解約月4ヶ月前のユーザーからの解約金は不当に高いっていう主張はできる…けども…

最高裁の判決が解約金設定の根拠となるんだろうけど、どうなるのか気になる。

  • 参考

携帯電話の「2年縛り(中途解約金の定め)」を有効とした事案(大阪高裁平成24年12月27日判決(NTTドコモ)、大阪高裁平成25年3月29日判決(KDDI))
基本的にはこの記事を参照。
携帯電話2年定期契約の解約金訴訟
詳しい。
解約金訴訟の第一審判決:ドコモとKDDIの違い
一審でKDDIが解約金の一部無効を命ぜられたわかりやすい説明。
ソフトバンクモバイル解約金訴訟の判決文を読む
(了)

*1:ちなみにこの団体はブライダルサービスのキャンセル料などについても追求してる。サイトを覗いてもわかるけど、なかなか過激な団体っぽい

*2:更には乗り換えてくるユーザーのためにキャッシュバックを支払っている

*3:多分この判決に到ったのはdocomo側の弁護士が、割引サービスの対価として解約金があるっていうのを押しまくったからなんだと思う