四十三庵

蔀の雑記帳

「終わった会社」だったIBMを復活させる方法(ルイス・ガースナー「巨象も踊る」)

なんか本の感想メモばっかりになって申し訳ない。

経営者の書いた本というのはたくさんあるけれども、創業期のものが多くて、
一時代を築いた大企業だけれども、最近は低迷していたところを立て直した「中興の祖」が書いた本というのはあまりない。
ジャック・ウェルチ「我が経営」あたりもそうなんだろうけども、当時のGEはIBM程の絶望感はなかった気がする。
外部から、しかもITの知識一切なしでIBMの経営を任されて、それを成し遂げたルイス・ガースナー。
彼がいかにしてIBMを復活させたか。
IBMの企業文化の記述は、日本の大企業と驚くほど酷似している。
内向きで、社内政治やポスト争いにエネルギーが注がれていて、クライアントの要望はほとんど把握していない殿様商売。
また手厚い福利厚生と、黒かブルーのジャケットに、白ワイシャツという文化。

文章の書き口からしても、ウェルチのような情熱的なタイプではなく、理知的で物静かな雰囲気が伝わってくる。
書き出しがいきなり
「私の文章に興味を持ってくれる人がたくさんいるとは思えなかったから、今まで本を書かなかった」
という内容からはじまる。
ただその分しっかり考えて抜いている印象がある。

  • 最悪の状態から立て直すためにやったこと

ガースナーの就任当初、IBMは完全に時代の変化に対応できず、巨額の赤字を出していた。
3ヶ月で、8億ドル(税引前)の赤字を出した。
時代はメインフレーム(大型汎用機)から、パソコンを利用したクライアント・サーバーシステムの時代へと移っていた。
マスコミでは、「IBMは後五年で潰れる」とまで言われていた。

そんなタイミングで、ガースナーは「今現在、IBMに必要なのはビジョンではない」と発言した。
IBMに求められているのは、各事業についての冷徹で市場動向にもとづく実効性の高い戦略だ」
では具体的に、何をしたのか。

1.会社を一体として保持する
IBMは世界中で展開していた。
また様々な事業があったため、経営難の頃に企業を分割していた。
「大きな会社は図体が鈍く、小さい規模に分割したほうが効率的に戦える」という発想だ。
しかし、ガースナーは基本方針として、「一つのIBM」として経営することを選んだ。
タイトルにある、「巨象も踊る」というのは、そういう意味だ。

2.メインフレームに再投資。半導体事業も継続
それぞれIBMの「強み」が活きる事業だった。
パソコン事業やOS事業で復活を賭けることも主張されたが、結局ガースナーはしなかった。
あくまでIBMが社会から何を求められているかを的確に把握していたからだ。
マーケットは、IBMMicrosoftOracleになって欲しいとは考えていなかった。

3.研究予算の確保
IBMのメインは、あくまで情報技術にある。
そんななか、研究予算を確保することは、財務が苦しくても必須だ。

4.すべての行動を顧客中心に
大企業になればなるほど、社内のプロセス重視になる。
社内の部門間の力調整に神経を注ぎ、顧客には「いかに金を出させるか」しか考えなくなる。

5.経費削減
ガースナーは、多くの経営再建者と同じように、89億ドルの経費削減を行った。
さらに、3万5000人のリストラを実行した。
前任者のジョン・エイカーズが4万5000人をリストラしていたので、反発は大きかったが、断行した。

  • 企業文化を立て直す

ガースナー本人が最も自分の業績のなかで評価するのは、IBMの企業文化の変革だ。

元々IBMの企業文化は、創業者のワトソンがつくったものだ。
ワトソンはアメリカ人には珍しい、勤勉・誠実・礼儀を重んじるタイプだった。
ワトソンは黒ジャケット・白スーツで、終身雇用・手厚い福利厚生というIBMの企業文化を創りあげた。
彼がIBMの企業文化として定めた三箇条があった。

1.完全性の追求
2.最善の顧客サービスの提供
3.個人の尊重

この三箇条はけして間違っていない。
けれども、この三箇条にもとづいたIBMの企業文化は、確実に時代と合わなくなっていた。
そしてIBMの官僚制度は意思決定の遅さの原因になっていたし、
個人の尊重による、誰でもノーと言える文化も、組織の意思決定の遅さにつながっていた。
(この誰でもノーと言える文化が問題、というのはアメリカンな感じがする)

ガースナーはこの原則を、次のように変えた。

1.市場こそが、すべての行動の背景にある原動力である
2.当社はその核心部分で、品質を何よりも重視する技術企業である
3.成功度を測る基本的な指標は顧客満足度と株主価値である
4.起業家的な組織として運営し、官僚主義を最低限に抑え、つねに生産性に商店を合わせる
5.戦略的なビジョンを見失ってはならない
6.緊急性の感覚をもっと考え行動する
7.優秀で熱心な人材がチームとして協力しあう場合に全てが実現する
8.当社はすべての社員の必要とするものと、事業を展開するすべての地域社会に敏感である

そしてこの原則を作り、幹部に伝えるだけでなく、
Microsoftビル・ゲイツOracleの創業者ラリー・エリソンがいかにIBMをDisってるかをあけすけに伝えた。
社員の感情を煽ったのだ。
人間を変えるには、理性に訴えるのではなく、感情に訴えるのが必要だと考えたのだった。

  • まとめ

どの会社でも、規模が大きくて業績落としてる会社(たとえば電機業界)は参考になるかなーと思った本だった。
一度成功することは難しいけども、成功し続けることはもっと難しいというのを考えさせられた本だった。
(了。1:01)