四十三庵

蔀の雑記帳

電子書籍普及を阻む、日本の出版業界事情

こんな本を読んだ。

以前から四十三庵では、電子書籍についていくつか記事を書いてきた。
上記の本は、光文社で「女性自身」編集部などに居て、フリーランスのジャーナリストになってしまった方が執筆した本だ。
そのため、日本の出版業界事情にリアリティがあった。

1.電子書籍のタイトル数が少なすぎること
2.Kindleのような電子書籍専用端末、「iPad」のようなタブレット端末が普及していないこと
3.著作権処理が煩雑で手間がかかりすぎること
4.出版社側に著作隣接権がないこと
5.紙と電子で流通・販売制度が違うことで、出版社が消極的にならざるをえないこと(価格決定権の問題)
6.フォーマットが乱立し電子書店ごとに異なること
7.流通を阻害している厳しいDRM規制があること

理由1、2はいわば結果だ。
理由1〜7を、電子書籍の問題1〜7として書き換えるとすれば、

1.市場のラインナップの少なさ
2.ハードウェアの問題
3.法的問題(著作権
4.法的問題(著作隣接権
5.法的問題(価格決定権)
6.ソフトウェアの問題
7.海賊版への対処(法律とソフトウェアの問題の中間って感じ)

まあ詳細は本を読んでくれ、というところ。
この記事では個人的に盲点だったところをまとめる。
上記の1〜7でいうと、6番のソフトウェアの問題、
あとは日本特有の業界構造の話。

僕はてっきり紙の本も、Wordかtxt形式の原稿があって、
出版社か作家が持っているもんだと思っていた。
けれども、実際は年寄りの作家だと紙の本だけしかない場合が多いらしい。
そうなると、スキャナで取り込んでOCR処理ということになるのだが、
そのときに微妙に読み取れない文字が出たり、挿絵のズレをどうやって構成するかとか、
ただスキャンして本にする、という訳にはいかないらしく、
結局電子書籍を作るにも校正作業が必要で、それが結婚コストらしい。

出版社側の要領が悪すぎるんじゃないか、という気もするんだけれども、
OCR技術がまだまが完璧じゃない以上、紙をすぐに電子書籍に、というのは厳しいのかもしれない。

  • 日本の出版事情

この本の著者は、海外の出版事情にも詳しい。
アメリカではKindleは絶好調だ。
日本でも電子書籍プラットフォームの中では一番いいと思っているが、しかしアメリカほどの利用者を獲得していない。

日本とアメリカでは国土の広さが全然違う。
人口密度が高い日本では、「全国紙」というのが成立する。
新聞配達員が、スクーターや自転車で紙の新聞紙を各家庭のポストに突っ込んでいく。
しかし、アメリカの田舎だとそれが難しい。
国土が広大すぎて、一軒一軒配達するのが厳しい。
アメリカの新聞紙は、どんなに有名でも基本的に「地方紙」であって、
全国に配達されている日本の新聞紙のような形態は珍しいようだ。

そんな地理的な事情もあって、アメリカではクレジットカード文化や、
カタログショッピングの文化というのが、インターネット登場以前から熟成されていた。

  • かつて出版社は「印刷技術」を売っていたのか?

出版社もレコード会社も、インターネットの登場で売上を落としている。
色々解釈はあるんだろうけども、インターネット登場以前の出版社・音楽レーベルは、
「価値ある情報」を売って、その対価を得ていたというよりも、
情報を広めるための技術を持っていることが重要な要素だったのではないか、という気がしている。
綺麗な本を大量に刷れる技術、あるいはそのような印刷会社とのネットワーク、
レコードやCDをつくる技術、あるいはそのような……

インターネットという情報をほとんどタダでやりとりできる技術ができてしまったせいで、
今まで価値をもっていた印刷技術や録音技術の価値が相対的に下がってしまったような気はしている。

だからといって、「出版・新聞 絶望未来」の最後の章のような、「IT悪者論」のような論調にも賛同出来ない。
素晴らしい本や音楽が、たくさんの人に広まる技術が出来たことが悪ならば、
それは出版社やレコード会社の自己否定ではないだろうか?
(了)

(過去記事)
日本で電子書籍はなぜ流行らないか?
電子書籍戦争の勝者が決まりそう
43個の電子書籍サービスを試して感じたこと