読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

四十三庵

蔀の雑記帳

映画「ゴースト・ワールド」


【五十嵐隆】透明な日【生還】 - YouTube

2001年作成のアメリカ映画とのこと。
Wikipediaとか見ると「高い評価を受けた」とのことなんだけども、
Google PlayにもiTunes Storeにもなかったので、興行的にどこまで成功したのかは疑問。
アメコミが原作らしい。
アメコミというと、マッチョなヒーローが出てくるマンガしかないのかと思っていたけど、
こんな思春期の女の子の繊細な心情の機微を描いたものもあるらしい。
マンガだとイーニドもレベッカもサブカルブスって感じで描かれてるけども、
映画だとソーラ・バーチスカーレット・ヨハンソンという、後の有名女優が演じている。

あらすじ

全米の若者の間でカリスマ的人気を誇るダニエル・クロウズの新感覚コミックを映画化した
おしゃれでキッチュでとびきり切ない低体温系青春ムービー。
アメリカン・ビューティー」のゾーラ・バーチが自分のセンスが一番と信じ、
周囲のノリにはついていけないけどやりたいことが見つけられず
不安を感じ始めた思春期の女の子をクールに切なく好演。
イーニド(T・バーチ)とレベッカ(S・ヨハンソン)は
高校を卒業した今も進路も決めないまま好きなことだけしてフラフラする毎日。
ある日、二人は新聞の出会い系の広告に載っていた中年男をダイナーに呼び出し、
待ちぼうけを食っている惨めな姿を見て暇を潰す。
しかし、イーニドのほうはその中年男シーモアのことがなぜか気になる。
やがて、シーモアの趣味である古いブルースのレコードをきっかけに二人の奇妙な交流が始まるのだが……。
若い女の子に年甲斐もなく恋してしまうダメ中年男をインディー界のカリスマ、
スティーヴ・ブシェミが演じ、音楽オタクの悲哀を見せ泣かせる。
movies.yahoo.co.jp

思ったこと

自分の感性を絶対的に信じながらも、
かといって芸術の道に真剣に進むことにはためらいを覚えている女っていうのは一定数いると思う。
女にかぎらず、男もそれなりにいるのかもしれない。
(この映画で言うシーモア)
この映画のストーリーの中心にいるのは、そういう人種であって、
「自分のセンスが一番と信じ、周囲のノリにはついていけないけどやりたいことが見つけられず
不安を感じ始めた思春期の女の子」とか、そういう宣伝文句でくくられたのはなんだかなあという気もする。
客観的に説明するとそういうことなんだろうけども、そういうことじゃないような気もする。

イーニドは「芸術家肌」ではあるんだけども、芸術家ではない。
芸術家肌と芸術家の差、つまりは偽物と本物の差がどこにあるのかというと、
現代社会においては、商業的な成功に他ならない。
絵を描いてインタビュー受けて個展開いたり、CD出してチャートにランクインしたり、
そうすれば本物の芸術家になれる。
しかしそのためには努力も必要だし、自分の中のあるかないのかわからない才能をぶつけなければいけない。
自分の感性を密かな支えにして、クラスメイトを小馬鹿にしてきた人間にとって、
自分の才能というのは、自覚こそしていないけれど、絶対的なものだ。

イーニドもシーモアも、きっと音楽の趣味は本当にいいし、
芸術的なセンスは間違いなく優れているのだろう。
けれど二人とも、芸術に関して消費者なのであって、最後まで何かを生み出すことはない。
イーニドの高校の親友、レベッカスカーレット・ヨハンソン)は、
イーニドと仲良しだけれども、ブロンドで、男からの人気もちょっとある。
(くしくも女優がスカーレット・ヨハンソンだし)
映画の中で、カフェのバイトはじめたり、割と社会に適合できるタイプ。

冒頭の卒業式のスピーチをした車椅子の女子高生(元コカイン中毒の優等生)や、
同級生の女優志望のオーバーリアクション気味の女の子や、
ビジネススクールに行こうとしている同級生の男や、美術の補習を担当していた赤髪の美術教師や、
「社会の中心にいるタイプ」を小馬鹿にするイーニドとレベッカの眼差しを、
単なる負け組のルサンチマンとして扱っていいとは、僕は思わない。
映画の中で散々映しだされる、アメリカ郊外の、退屈な街並みのように、
空虚な世界を、彼女たちは正しく見ているように思える。
特にイーニドやシーモアのように、富や名声に興味を示せない人間にとって、
今(といっても2000年くらいのアメリカ)の世界は、「ゴースト・ワールド」と呼ぶにふさわしいのだろう。

ラストシーンが賛否両論みたいなんだけども、
僕は「この映画ここで終わったら本当に神だなあ」と思っていた、
ほぼそのところで終わってくれたので、満足しております。

自分の中にまだこういう映画で感性を揺すぶられるものが残っていることを発見できてよかった。
(了)