四十三庵

蔀の雑記帳

オウム真理教に学ぶ組織づくり(森達也「A3」)

 

森達也「A3」という本を読んだ、読書レポート。
僕はこの本を、単にオウム真理教のまとめ本だと思って読み始めたんだけど、
実際は単に事実を追ってるのではなくて、オウムがなぜサリン事件を起こしたのかとか、
メディアの報道姿勢とか、日本の司法とか、
行き過ぎたオウムバッシングへのアンチテーゼがこの本の柱だった。

僕もこの本を読むまで、オウムは洗脳された信者と異常者麻原の集団だと、
単純化して考えていたので、森達也のメッセージには衝撃を受けた。
いい本だと思う。
平成の日本を考える上で、読んだほうがいい本の一冊じゃないかと思う。
ところどころ著者の自己陶酔が強すぎて「ウッ」となる部分があるが、
文章自体は洗練されているし、取材量もすごい。

ただこの本のメインテーマである、「本当の社会正義とは何なのか」というところに、僕はあまり自分の考えがない。
知識も、ベンサムロールズかくらいしか引き出しがない。
いい本だからといって、著者の意図通りに読まなければいけないということはないだろう。
僕はこの本を読みながら、組織論について考えた。

  • 個人と組織

オウムは驚くほど官僚的な組織構造をとっていた。
宗教団体であるにも関わらず、日本政府の省庁制度を真似たような組織作りをしていたところも、
オウム真理教の不気味さを際立たせている。

オウムの教義は、系統としては小乗仏教に近いルーツを持っている。
元々がヨガ教室だったことからもわかるとおり、
修行をして、悟りを開くのを目的とした宗教だった。
オウムに入信した人間は、本来日本を救済したいなどと考えていなかった。
個人的な悩みがあって、それを解決してくれる手段として、麻原彰晃の教義を選んだのだった。

そのような個人主義の人間で構成された組織で、どのように統制をとるのだろうか?
オウムがもっと小規模だった時代は、そもそも組織として統制をとっていなかった。
省庁制度などなかった。
そもそも人数が少なく、互いにコミュニケーションが密な状態ならば、
組織を統制する制度など、そもそも必要ないのだ。
ヨガ教室時代のオウムでは、麻原自身が「解脱できない…解脱できない…」とかブツブツいいながら修行している姿を、生徒が目の前で見ていた。

これは企業の成長にともなって、組織が硬直化していく様子とすごく似ている。
ベンチャー企業のカリスマ経営者が、個人の魅力と能力で組織を成長させた結果、
組織が急速に肥大化して、次第に経営者と現場の距離が遠くなり、
どんどん企業の魅力が落ちていく、という典型的なパターンだ。

歴史でも、このパターンはよく出てくる。
豊臣秀吉が晩年に意味不明な朝鮮出兵を行った例や、三国志劉備が晩年に呉へ出兵した例だとか、
多分日本や中国に限らず、世界どこでもこの手のパターンは多いのではないか。

大規模化した組織では、必ず起きる問題らしい。

  • 暴走する組織

地下鉄サリン事件をきっかけに、テレビにも出演していた麻原彰晃は、
一気にヒトラースターリンと並べられる大悪人としてメディア・論壇を賑わすことになる。

「熊本の貧乏な家庭に生まれたとか、
子供の頃に目が見えるのに盲学校に入れられ、目の見えない同級生を暴力で従えてたとか、
幼児期から後の「麻原彰晃誕生」につながる異常性を発揮していた」というのが、
オウム本の定番ストーリーだ。
「A3」では、その「わかりやすいストーリー」が徹底的に批判されている。
そのかわりに、森自身がたどりついた、一つの仮説は、
「官僚化したオウム真理教という組織の中で、
側近たちは麻原の意向に沿うように報告をするようになった。
ほとんど失明して、外界の情報が入ってこない麻原にとって、
側近の報告は唯一の情報網であった。
極悪人の麻原と、洗脳された冷酷非情の信者たちという構図ではなく、
悩みながら教祖として振舞っていた麻原と、その麻原を絶対化し過ぎていた側近たちの相乗効果が、
最後には地下鉄サリン事件につながった」というものだ。
僕もわりとこの仮説には納得できる。
「A3」を読む途中で、この著者は散々メディアを否定した後に、
「我々はもう一度、我々一人一人が、オウムについて考えるべきではないだろうか……」とか安易に投げかけて終わるのではないか、
という不安があったけれど、しっかり著者なりの結論が書いてあったのが素晴らしい。

  • 大組織の一番いい運営方法

働きはじめた頃からずっと考えているんだけど、これが一番むずかしい。
どんな偉人も失敗しているので、結局は組織が大きくなると色々問題が出てくるのは避けられないのかもしれない。
色んな問題に最善ではないかもしれないけれど、なんとか最悪の結果だけは避けるように対処しながら、
なんとかやり過ごしているっていうのが、ほとんどの大きな組織の現実なのかもしれない。
それで最悪の結果につながってしまう組織もいくつかあるけれども、大半の組織は誰かが食い止めているんだと思う。
地下鉄サリン事件の実行犯は名前が残るけれど、もしも地下鉄サリン事件を実行する前に麻原と幹部を諌めて、
計画を白紙にした人物が居たとしたなら、彼の名前は全国区にならなかっただろう。

今一番いいと思うのは、

カリスマ経営者+よくできた官僚組織

という風な組織運営だと思う。
Appleみたいな。
経営者は正しいビジョンを示して、それを現場に伝えて、
現場ではよくできた官僚組織がそれを形にする。
(了)