- インサイダー取引について
奇しくも日本とスイスという別の国で、株と為替という別の投資対象ではあるけども、
同じ政府関係者のインサイダー取引が発覚し、大きな問題となっている。
●日本
経産幹部を午後逮捕へ 東京地検、インサイダー容疑
2012/1/12 11:51 (2012/1/12 12:57更新)経済産業省の前資源エネルギー庁次長(53)=現・同省官房付=のインサイダー取引疑惑で、東京地検特捜部は12日午後にも、半導体大手、エルピーダメモリとNECエレクトロニクス(現ルネサスエレクトロニクス)の未公開情報を基に両社株を購入した金融商品取引法違反(インサイダー取引)の疑いで前次長を逮捕する方針を固めた。
特捜部は前次長を本格的に取り調べるとともに、証券取引等監視委員会と合同で、東京都世田谷区の前次長宅の家宅捜索にも乗り出し、産業政策を揺るがした現職キャリア官僚の不正な株取引の実態解明を急ぐとみられる。
これまでの調べなどによると、前次長は半導体業界などを所管する経産省商務情報政策局の審議官を務めていた2009年4月下旬、NECエレとルネサステクノロジとの合併計画が公表される前にNECエレ株約5千株を妻名義で購入。
5月中旬には、改正産業活力再生特別措置法(産活法)を適用したエルピーダ再建策の公表前に同社株3千株を同様に買い付けた疑いが持たれている。前次長はその後の売却で二百数十万円の利益を得たとみられる。
いずれも職務を通じて得た未公開情報を基に取引していた疑いが強く、NECエレ株の取引を巡っては、東京・霞が関の経産省を訪れた同社幹部から合併計画について直接報告を受けた直後に同社株を買い付けていたことが既に判明。前次長は日ごろから勤務時間中に同省が貸与した公用の携帯電話で株を購入することもあったという。
前次長については昨年6月、監視委が同法違反容疑での強制調査に乗り出し、押収した資料の分析を進めていた。これを受け、特捜部も経産省関係者や両社の幹部から事情を聴いたほか、同年末には株購入の経緯などについて前次長を任意で聴取。前次長は違法な株取引を否定していたとみられる。
●スイス
(FT)スイス中銀総裁夫人、ドル買いで巨額の利益
2012/1/5 14:00
(2012年1月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)スイス国立銀行(SNB、中央銀行)が社外秘の倫理規定を公表せざるを得ない事態に追い込まれている。SNBがスイスフランの急騰に歯止めをかけようと議論を重ねていた時期に、フィリップ・ヒルデブランド総裁の妻が「ばかばかしいほど安かった」という理由でドルを50万ドル購入していたことが発覚したためだ。
■政府や監督機関は総裁を擁護
総裁の妻で外為トレーダーだったカシュヤ・ヒルデブランド夫人の為替取引を巡り、政界にも激しい動揺が及んでいることを受け、SNBは幹部の金融取引に関する倫理規定の公表を決断した。
ヒルデブランド夫妻も昨年の金融取引をすべて公表しており、総裁は5日、記者会見で妻の為替取引について説明する。
スイス政府とSNBの監督機関は同総裁を擁護する意向を示している。同氏は2003年にSNBの専務理事に就任後、10年に総裁に昇格した。スイス政府は「ヒルブランド氏に全幅の信頼を置いている」と表明した。
同総裁は昨年、SNBの無制限の市場介入を支持したが、この決定はSNBに巨額の含み損をもたらすことから当初は物議を醸した。だが、今ではこの戦略が正しかったことが示されている。
■約6万スイスフランの利益を獲得
総裁夫人の取引明細には、昨年8月に40万スイスフランを売って50万4千ドルを購入したことが示されている。夫人はこの取引の理由についてドル相場が「ばかばかしいほど安かった」ためだと説明している。それからひと月もたたない9月6日、スイスフランの上昇ペースを抑えるために巨額の資金を投入してきたSNBは、自国通貨のさらなる上昇を抑えるため無制限の市場介入方針を打ち出した。
SNBはスイスフランの対ユーロ相場に上限を設定したが、スイスフランは対ドル相場でも下落。総裁夫人は無制限介入が導入された翌月、購入額とほぼ同額のドルを売り、約6万スイスフランの利益を手にした。
同総裁はスイス政府やスイス中銀にも調査させたが、不正行為の存在は明らかにならなかった。
ヒルデブランド夫妻の金融取引の明細は、夫妻が口座を持つ銀行の行員が(総裁と敵対する)国民党のクリストフ・ブロッハー副党首にリークしたことで発覚した。この行員はその後解雇された。
一連の為替取引は、夫妻が別荘を売却後、保有資産の為替リスクを分散しようとしたことに端を発している。
By Haig Simonian
結局スイス中銀総裁は辞任することになった。
「投資に絶対はない」とはよく言われるけど、「絶対儲かる投資」というのが存在する。
それがインサイダー取引だ。
新聞ではこの手の報道がされるたびに「再発防止策を講ずるべきだ」とか「市場の信用失墜」とか、
「政治家のモラルがヤバい」みたいな結論になるけども、実際インサイダー取引は防ぎようがない。
個人的に思うけれども、マスコミ関係者って結構内部情報持つ場合があって、
それが記事になって公表されるタイミングまでわかる訳で、
マスコミ関係者が投資やってれば確実に限りなく黒に近い投資が行われているはずだ。
漫画「闇金ウシジマくん」の「フリーターくん編」には、
ウシジマが株を信用取引で空売りしまくって、雑誌に社長の覚醒剤使用記事を出すことで、その銘柄を暴落させるという描写がある。
漫画は漫画だけども、現実でもインサイダー取引については暗数が存在すると思われる。
それを摘発する手段というのはない。
- エルピーダメモリについて
さてさて。
インサイダー取引の対象としてしばしば話題になるエルピーダメモリの話をしよう。
wikipediaから丸コピペするとこういう会社だ。
エルピーダメモリ株式会社(英訳名:Elpida Memory, Inc.)は、東京都中央区に本社を置くDRAMの開発・設計、製造、販売及び半導体製品のファンダリー受託を事業内容とする会社。日本における唯一のDRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリー)専業メーカー。 日立製作所と日本電気(NEC)のDRAM事業部門の統合により設立されたNEC日立メモリが前身。現在の日立製作所と日本電気の出資比率はそれぞれ9.87%と5.97%(2008年3月26日現在)
簡単に要約すると、日立とNECが共同で「DRAM」という半導体製品をつくるために作った企業が、今のエルピーダメモリだ。
DRAMというのは、コンピューターに用いられる記録装置である。
薀蓄を入れると、コンピューターの記憶装置は最初磁石が用いられていたそうだ。
電気を流してN極になるか、S極になるかで「1」と「0」を識別していた。
しかし磁石を使うとどうしてもサイズが大きくなってしまう。
そこで小型化のために考案されたのが半導体だ。
半導体の場合、コンデンサに電気が貯まると「1」、そうでなければ「0」で区別している。
1ビットのメモリに貯蔵庫としてのコンデンサ、スイッチとしてのトランジスタがあって、
それが碁盤の目状に敷き詰められているのが僕らの今使ってるPC・スマホに入ってる半導体だ。
DRAM(ディーラムと読むらしい。ずっと僕はドラムって読んでた)は、その半導体の中でも、
「コンデンサから時間がたつと電気が消えてしまう」タイプのものだ。
コンピューターのメインメモリに使われている。
最近図解雑学の「コンピュータのしくみ」を読んだのでムダな薀蓄を入れてみたが、読み飛ばして頂いても一向に問題ない。
エルピーダメモリは、DRAMに関して、世界三位のシェアを誇る、確かな技術力を持った企業である。
●株価【6665】
●利益
年度 | 2006年度 | 2007年度 | 2008年度 | 2009年度 | 2010年度 |
当期純利益 | 52,943百万円 | -23,542 | -178,870 | 3,085 | 2,096 |
当期純利益率 | 10.8% | -5.8 | -54.0 | 0.7 | 0.4 |
見ての通り、2008年に大赤字を出していて、
「2009年6月30日には、改正産業再生法の適用と発表され、一般企業に公的資金を注入する1号案件となった」そうで、これを例の経産省幹部が利用した。
公的資金注入で一端浮上した株価だったが、結局低迷して、現在300円台まで行った。
株価低迷は増資しまくってる(参考の「エルピーダメモリの本業は〜」記事参照)のもあるけど、
結局増資しないと資金繰りがヤバいからそこまで増資しているのである。
エルピーダメモリの低迷は、究極的にはDRAM価格の下落によるものだ。
(※長期チャートが探せなかったため、二つ載せてます。メモリ容量の違いに注意)
DRAM価格は底なしに下がっている。
エルピーダに限らず、DRAM関連で利益上げてるのは実はサムスンぐらいしかいないのだ。
- ITは過大評価されている
ITは21世紀の何一つ希望がない時代に生きる我々に残された数少ないイノベーションであり、実際素晴らしい技術である。
世の中の色々な制度を変える原動力になっている。
けど間違いなくITは過大評価されてきた。
エルピーダメモリの低迷もそのしっぺ返しみたいなものだろう。
アメリカの90年代後半〜2000年前半に「ニューエコノミー」と呼ばれる理論が流行した。
当時のアメリカ証券市場は空前のITバブルだったが、その正当化のために
「ITというイノベーションで経済は今まで人類が経験したことのない全く新しいステージに突入し、
生産性はITにより無限に向上させることができるようになった!!!!!!!!!!!!!1」というのがニューエコノミー論だが、
結局エンロンショックでバブルが弾けると、ニューエコノミー論者はいつの間にかどこかにいなくなってしまった。
日本で半導体メーカーというと、一般的な知名度は低いけれど、
ロームやアドバンテスト、東京エレクトロンあたりの三社が代表的な企業だろう。
ITへの過剰な期待は、株価に対してはプラスに作用した。
無論どちらも優秀な技術を誇る、シリコンバレーの雰囲気と比べると地味だけど、
日本の製造業を代表するような優秀な企業であって、けして悪い企業ではない。
しかし長らくこの企業の株価が高止まりしたのは、やはりITへの過大評価があるだろう。
エルピーダメモリと同様に、半導体価格下落はこの三社の優良企業の株価も下げている。
●ローム【6963】
●アドバンテスト【6857】
●東京エレクトロン【8035】
2011年は半導体メーカーにとっては「冬の年」だった。
3・11やら欧州債務危機やらの影に隠れてイマイチ目立たなかったけど、結構危機的状況を迎えている。
僕は、これは過大評価されていたIt関連銘柄が適正値に近づいていく動きだと思っている。
- 関連記事
テクノロジーはある。問題はそれをどう使うか。
もうなんか技術的な進歩は停滞しはじめてて、「使い方」を上手いこと考えた奴らが勝てる時代に来てるんじゃないか、という記事。
あぽー(ipod以降)にせよついたーにせよモバゲーにせよ、「どう使うか」って話でしょ。
- 参考
山田宏尚「図解雑学コンピュータのしくみ」
底なしのDRAMスポット価格、底なしのエルピーダ、株買うよりメモリ増設が断然お得
エルピーダメモリ(6665)の本業は「株券印刷」で、「半導体」は副業という気がしないでもない件
DRAMeXchange
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でもこのぐらいしかDRAM価格を表示してるサイトってないんだよなあ。
(2011/1/21)
地味に東京エレクトロンを追加。