四十三庵

蔀の雑記帳

日本人のつくる組織の何がダメなのか(「失敗の本質」)

ソフトウェア業界では、GAFAに代表されるアメリカのIT企業が絶好調なのに対して、
日本のIT企業(具体的にはNTT系、富士通、NECなど)は色々遅れている。

そこに関しては色んな論点があって、それこそ一冊の本が書けるレベルだけれど、
「そもそも日本人のつくる組織ってイマイチだよなあ」と思って、そういう問題意識から「失敗の本質」を手にとった。

失敗の本質

失敗の本質

「失敗の本質」概要

1984年に発売された本で、太平洋戦争(本の中では大東亜戦争と呼称)の敗戦の本質的な原因を分析した本。
第一章で事実関係を整理し、第二章で失敗の本質を分析、第三章で教訓を学ぶ、という内容。

書評

最初に感じたのは、文章があまりよくない方向の硬文で、単純に読みづらかった。
また文章だけでなく、内容についても、専門が違う著者が共著しているので、
よく言えば幅広い視点になっており、悪く言うとごちゃごちゃしていて読みづらい。
ただ書いてある内容については示唆に富んでいるので、頑張って読んだ。

就職してから歴史の本を読んだことはほとんどなかったので、
こういうのを読んでいると自分が元々歴史好きな子供だったことを思い出して、懐かしくなった。
脳の中の使っていなかった分野が稼働しているような感覚があった。

現代に適応できる?

日本軍の敗戦から学ぶものは多いけれど、当時と今の日本だと状況も異なっていて、単純比較は危険だなと思った。
たとえば戦前の日本は、現代から比べると想像もできないくらい貧困国だったし、教育機関も未熟で、貧富の差も激しかった。
2020年の我々が直面している貧富の差とは、またちょっと違うものがあるようには感じる。
1945年(敗戦の年)と比べると、貧困層のボトムラインは確実に上がっている(豊かになった)のではないかと思う。
日本全体、というか世界全体のトレンドでもある。

陸軍と海軍で文化が大きく違う

この本を読むまで忘れていたが、そういえば日本軍でも陸軍と海軍で大きく文化が違うのだった。
なので、「日本軍はこういう組織だ」と語る場合、それが陸軍の話なのか、海軍の話なのかには注意した方がいい。
たとえばインパール作戦から何かを語ろうとするときに、「日本軍はこんな無謀な作戦を行った」と主張するのは主語が大きくて、
正確には陸軍の判断なので、日本陸軍の中にあった問題と考えるのがフェアだと思う。

「失敗の本質」の結論

第二章の抽象的な分析の結果、日本軍とアメリカ軍の性質が下記のように整理される。
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また、日本軍の失敗として、「過去の成功の過学習」があるということも指摘されている。
陸軍における白兵銃剣思想、海軍における艦隊決戦主義は、それぞれ日露戦争の203高地とバルチック艦隊撃退から来ている。
その成功体験を、士官学校で教わった世代が、太平洋戦争では参謀として戦略を立てた。

じゃあどうすればいいか?

あくまでこの本は敗戦の原因を分析しただけであり、「じゃあどうすればよかったのか?」という観点は希薄だ。
「アメリカと同じことをやればよかった」という結論なのであれば、少し浅はかだろう。
この本から得た教訓を、どう活かすべきなのかをこの記事の残りでは考えていきたい。

議論が空気で決まる国

組織的な決断というのは、元々難しいものだ。
日本がダメ、というか多くの集団が失敗している。
アメリカだって後のベトナム戦争で失敗する。

特に日本の場合、「空気」というのが大きい。
学校や会社の議論のプロセスを思い出しても、ロジカルに決めるというよりかは、
みんなが何となく納得した雰囲気をつくりあげることが大事だったように感じる。
その辺は下記の著書が詳しい。

「空気」の研究 (文春文庫)

「空気」の研究 (文春文庫)

  • 作者:山本 七平
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/12/04
  • メディア: Kindle版

日本の問題点について考えを深めたければ、「失敗の本質」と「「空気」の研究」の二冊を読むとある程度十分なのかと思う。
インパール作戦が決行された経緯なんて、まさに牟田口中将がつくりだした「空気」によるものだろう。
現代で言えば、イケイケのベンチャー社長が自信アリな感じで、無謀な新規事業をはじめて、
みんな内心不安を感じたが投資して、結果的に大損失を招いた、みたいな話にも通じるものがある。
去年だとWeWorkというシェアオフィスを運営するベンチャーに対するソフトバンクの投資が焦げ付いて、大損を出した事案もあった。
(ソフトバンクが空気で決断した、という話ではなく、WeWorkの元社長の空気の作り方の話ね)

空気で決まる、というのは、たぶん日本の地理的・文化的な性質に由来するんだと思われる。
大陸から海で隔てられている日本は、言語的にも文化的にも閉鎖的で、外界との交流が少ない。
ヒエラルキーがしっかりしている集団では、長期的な関係を重視する。
会議の中で相手のメンツが潰れるくらい批判することを避けがちになる。
日本人の特性、というよりは、環境的にそうせざるを得ないんじゃないかと思う。

儒教道徳の問題

儒教道徳、というのは、日本の組織の成長を妨げている、と僕は考えている。
目上を敬うことはいいが、それが拡大解釈されて、目上の人間には反対意見が言えないところまで言ってしまうところがある。

空気で決断した決定が、なぜか一度決定されると覆らなくなってしまう。
本来難しい決断は、むしろ状況が変われば速やかに変更しなければいけない。
英語には朝令暮改という言葉がそもそもない(らしい)。
決断がコロコロ変わること=悪という発想になってしまうのがよくないのかもしれない。

リーダー層の競争の弱さ

リーダーの競争が弱い、という側面もある。
無能なリーダーは変えなければならないのだが、日本軍はそれができなかった。
というか今でも日本の組織はその辺の競争ができていない。
これも儒教道徳っぽく組織がつくられていることから来ている気がする。

実は下剋上が許された日本陸軍

年功序列で組織ができていて、能力主義のルールがない、というのは日本の組織によくある欠陥だ。
けど実は日本陸軍は下剋上が結構あった、ということも書かれている。
若手の積極論を抑えきれない上官、という構図があった。
若手は若手で、いくら積極論を言って作戦失敗しても、
現場の兵隊が死ぬだけで自分が血を流す訳ではないので、いくらでも勇敢な突撃作戦を立てた。

そういう意味で、日本の組織というのは非公式な形で実力主義になっている場合が結構ある。
お飾りのトップがいて、実際の戦略はその一個下の優秀な参謀が書いているようなケースだ。
組織の判断における上下逆転現象は、特に非常事態になるとより起こりやすくなる。

実力主義でダメになった組織

ここまで書いてきて、やはり年功序列組織はダメなので、実力主義の組織を作りたいね、という一つの結論は得られる。
ただ企業に実力主義を適用するときに、日本だとなんか上手くいかないケースが散見される。

内側から見た富士通「成果主義」の崩壊 (ペーパーバックス)

内側から見た富士通「成果主義」の崩壊 (ペーパーバックス)

  • 作者:城 繁幸
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2004/07/23
  • メディア: 単行本

上記の本は富士通の例で、ちゃんと実力主義にしたら問題が出た例だが、そうではなく、実力主義の制度が形骸化しているパターンが多い気がする。
僕が前居た会社は、実力主義で給料変わります、と謳っている割には、普通に年功序列だった。

学校が悪い、といえば学校が悪い

日本企業で成果主義がうまくいかないのは、学校教育が悪いようにも思う。
引いては日本における集団の持っている文化がやはりよくない。
「大陸から海で隔てられている日本は、言語的にも文化的にも閉鎖的で、外界との交流が少ない」と前述したが、
学校もどうしても「空気の読み方を教える場所」としての側面がある。

実力主義の導入は必然

「じゃあどうすればいいか?」を考えると書いておいて、なかなか具体案が出せないままつらつら書いてきたが、
結論的には実力主義の導入は必然だと思う。
ただ問題は導入の仕方で、それまで「日本的」に運用されていた組織に突然ラディカルな実力主義の導入は厳しいと思う。

あとは競争を忌避する文化の変化、競争に負けた後にセカンドチャンスがあること、競争に勝った場合の報酬を高くする制度設計、等等は必要だと思う。
客観的に結果を評価するプロセスも重要かなあ。
日本的な組織でよく見るのは、どう見ても失敗策だった、みたいな作戦が、上のメンツを立てるために「大成功に終わった」ことになるケースだ。
前の会社ではどう考えてもイマイチに終わったシステム更改にプロジェクトについて、役員が「大成功でした」と宣言して、
我々現場の兵卒は「大本営発表」などと揶揄していたので、そういうのは潰したいよね。

日本的な組織にならないためにはこうする

だいぶごにょごにょ書いたら論点はまとまってきた気がする。
つまり残念な日本的な組織にならないためには、下記が必要だ。

  • 実力主義の組織
  • 適度な競争
  • 論理的な意識決定プロセス
  • 客観的に結果を評価できるプロセス

最近のWebベンチャーだとKPIを立てて、そこに向かって全力でやっていくので、この四要素は満たせているかなと思う。

KPIの奴隷

ただその先に、「KPIの奴隷」という別の問題がある。
KPIを重視するあまり、歪なものができあがることがある。
ベトナム戦争でアメリカが枯葉剤まいたのも、合理的な組織が生み出した作戦という感じがする。
ベンチャー企業だと、売上が正義となってしまうと、下品なCM流しまくったり、ソシャゲの課金を誘導しまくったり、
「お前そんなプロダクトつくりたくて起業したの?」みたいな結果になる。

まとめ

そんなことで、「失敗の本質」から日本人の組織が抱えがちな問題と、そこからの脱却方法について考えてみた。
どちらかというと民間企業の組織づくりへの応用という目線で考えているので、他の組織に所属している人はまた別の感覚を持つかもしれない。
(了)